研究課題
ゲノムがDNAクロスリンク傷害をうけると、ファンコニ貧血(FA)経路の活性化によってFANCD2/FANCI(ID)複合体がモノユビキチン化をうけ、DNA傷害部位に結合する。我々は、FANCD2に会合するあらたなエフェクター分子として、DNA二重鎖切断修復に重要なヌクレアーゼ因子であるCtIP蛋白質を同定した。本研究は、この発見をもとにCtIPのID複合体による制御機構を解析し、DNAクロスリンク修復における役割を解明しようとするものである。FAの病態解明と、将来のFA経路の人為的操作へとつながる成果を目指す。本年度までに以下の諸点を明らかにした。精製したヒトFANCD2複合体に、FANCIなどの既知の会合蛋白以外にCtIPの存在を確認した(首都大学東京、礒辺教授らとの共同研究)。さらに精製したFANCD2と(早稲田大 胡桃坂教授との共同研究)と購入したGST-CtIPとのインビトロの結合をプルダウンによって確認した。さらに、CtIPとFANCD2の会合は、免疫沈降法、酵母2ハイブリッド法、ほ乳類細胞における2ハイブリッド法などでも確認された。FANCD2は、クロスリンク障害部位に集積してフォーカスを形成するが、CtIPのフォーカス形成はFANCD2と共局在しており、さらにFANCD2の存在とユビキチン化に依存していた。さらに、CtIPとFANCD2との会合ドメインの同定に成功した。さらに、今年度は、CtIP点変異による会合不能の変異体を作製し、フォーカス形成が不能となり、機能的にはMMC感受性がマイルドに亢進することを見出した。また、CtIPはユビキチンと結合可能であることも確認した。しかし、インビトロの結合反応でみると、CtIPとFANCD2の会合の強さはユビキチン化の有無に関係なかった(早稲田大学胡桃坂研究室との共同研究)。これらの結果をまとめ、現在投稿中。
2: おおむね順調に進展している
当初予想していなかったCtIPのユビキチンとの結合能を発見した。また、これらの結果をまとめ、現在投稿中であるため、順調に進展していると判断できる。
CtIPのユビキチン結合ドメインをマッピングする。また、FANCD2がクロスリンク修復においてCtIP以外にヌクレアーゼをリクルートすることがわかっているが、この点と、DNA損傷応答シグナルの関係を解明する。さらに、DNA二重鎖切断修復におけるFANCD2の役割がやはりCtIPリクルートで説明される可能性を検証する。これらは、いずれも重要な問題であり、解決によって本研究の成果をより価値あるものにできる。
今年度使用額が減じたのは、主に代表者と分担者に生じた不測の事態によるものである。たとえば、代表者は海外出張をもう一回行う予定であったが、様々な理由によりできなくなり、出張費が使用できなかった。また、研究支援者の雇用の予定が、適切な人物が見つけられず、不可能となった。分担者が年度途中で辞職し、それ以降消耗品の使用が減じた。また、投稿中の論文がアクセプトにいたらず、投稿費用が不要となった。論文の投稿費用、新規の機器導入、実験の消耗品代として主に使用される。また、新規に雇用された研究員があたらに分担者となったので、消耗品としての使用が増加する予定である。
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