研究課題/領域番号 |
24310045
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研究機関 | 一般財団法人電力中央研究所 |
研究代表者 |
冨田 雅典 一般財団法人電力中央研究所, 原子力技術研究所, 主任研究員 (00360595)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 放射線 / 細胞・組織 / シグナル伝達 / 幹細胞 / DNA損傷 |
研究実績の概要 |
DNA2重鎖切断(DSB)は、放射線被ばくによって生じる生物影響の主な原因である。DNA Ligase IV(Lig4)は、DSBの修復機構のひとつである非相同末端結合において、切断したDNA末端を最終的に再結合する最も重要なタンパク質のひとつである。このLig4に点突然変異を持つマウスを用い、以下の結果を得た。 1. 低線量率放射線照射下におけるDNA損傷蓄積性の解明 (1) Lig4変異マウスから、胎児線維芽細胞(MEF細胞)を樹立した。この細胞に100 mGy/hのγ線を連続照射した結果、野生型細胞では生存率の低下が著しく抑制されたが、変異型細胞では線量に応じて直線的に生存率が減少した。また、野生型細胞では照射中の細胞周期進行に顕著な変化は認められなかったが、変異型細胞では進行が抑制された。これらの結果は、Lig4変異細胞では、γ線連続照射下でDNA損傷が修復されずに蓄積することを示唆する。 (2) Lig4変異マウスと野生型マウスを、1 mGy/hと0.3 mGy/hの低線量率連続照射下において飼育し、脾臓細胞や造血幹細胞への影響を解析した。野生型マウスでは照射による影響は認められなかったが、Lig4変異マウスでは成熟したB細胞や造血幹細胞が顕著に減少した。Lig4変異マウスでは、非照射でも造血幹細胞から増殖細胞への分化が抑制されるが、低線量率照射下ではその傾向が加速されることを明らかにした。 (3) (2)で照射したマウスから十二指腸を切除し、クリプト底部の幹細胞を観察し、アポトーシスの誘導を確認した。 2. 低線量率放射線照射下における染色体不安定性の解明 p53依存性のアポトーシスを抑制して、Lig4変異細胞を長期培養することにより、染色体不安定性を解析する。今年度はp53ノックアウトマウスとLig4変異マウスとの交配を開始したが、MEF細胞の樹立が若干遅れている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
造血幹細胞への影響の解析を加速し、すでに低線量率放射線の標的となる造血幹細胞集団を特定した。 一方、染色体不安定性に関する実験において、p53ノックアウトマウスの生産が当初うまく行かずに時間を要したが、すでにLig4変異マウスとの交配により2重ヘテロマウスなどが得られており、今後十分に研究期間内での目的の達成が可能である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、1. 低線量率放射線照射下におけるDNA損傷蓄積性の解明と、2.低線量率放射線照射下における染色体不安定性の解明を引き続き実施するとともに、新たに低線量率放射線照射下における生体応答モデルの構築を行う。 1.では、不足しているデータを補い、27年度中に可能な限りデータを取りまとめる予定である。 2.では、Lig4とp53の2重変異マウスのMEF細胞を速やかに樹立し、低線量率連続照射による染色体の不安定性の解析を進める。解析方法は確立している。 3.では、27年度中は主にMEF細胞を用い、DNA損傷応答関連遺伝子を中心に、低線量率連続照射による発現変化をPCRアレイにより明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
国外出張旅費を予定よりも節約できたため。 また、連携研究者の協力により、国内出張の回数を減らすことができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
研究効率化のために、旧式で故障がちな細胞計数装置の更新に使用する予定。
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