研究実績の概要 |
DNA2重鎖切断(以下、DSB)は、放射線被ばくによって生じる生物影響の主な原因である。DNA Ligase IV(以下、Lig4)は、DSB修復機構の1つである非相同末端結合において、切断したDNA末端を再結合する最も重要なタンパク質である。このLig4に点突然変異を持つマウス(Lig4Y288C, Australian Phenomics Facilityより提供)を用い、以下の結果を得た。 1. 低線量率放射線照射下におけるDNA損傷蓄積性の解明:ヒトLig4遺伝子を導入したLig4Y288Cマウス胎児由来線維芽(MEF)細胞の生存率を解析した結果、いずれの線量率においても、野生型細胞と同レベルまで感受性が回復することを確認し、Lig4Y288CMEF細胞の高感受性の原因が、Lig4の変異にあることを確実にした。 小腸の凍結切片を作成してDSBの蓄積性を観察した結果、1 mGy/hで連続照射したLig4Y288Cマウスでは、野生型マウスと比較して、幹細胞の存在するクリプト底部においてより多くのDSBが蓄積していた。 2. 低線量率放射線照射下における染色体不安定性の解明:Lig4Y288Cマウスとp53ノックアウトマウスを交配して作成した2重変異MEF細胞を1 mGy/hで長期連続照射した結果、照射開始後しばらくは非照射群よりも高い感受性を示すが、ある線量を超えた段階から非照射細胞を上回る増殖性と生細胞率を示すことを新たに見出した。 3. 低線量率放射線照射下における生体応答モデルの構築:1 mGy/hで連続照射したLig4Y288CMEF細胞を用いてPCRアレイにより遺伝子発現解析を行ったところ、非照射細胞と比較して、通常の放射線によるDSB修復には関与しないDNA修復経路の遺伝子群の発現が増加していることを見い出した。この意義については、別途解明を行う予定である。
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