研究概要 |
東アジアに代表される諸地域で井戸水を介した慢性ヒ素中毒が発生しており,多臓器における発癌,糖尿病や循環器疾患など広範囲な疾病を発症している.本研究では,「生体の免疫機能がヒ素化合物によって障害を受け,それがヒ素による健康障害の増悪因子になったのではないか」と仮説を立てた.平成24年度では,ヒト培養T細胞,NK細胞の機能に対するヒ素化合物の影響について検討を進めた. ヒト培養T細胞のJurkat細胞をPMAおよびA23187で刺激した12時間後の培地中に分泌される11種のサイトカインを測定したところ,IL-8およびTNF-αの増加を検出した.これらのJurkat細胞のサイトカイン分泌能に対する亜ヒ酸の影響を検討したところ,亜ヒ酸はPMA+A23187によるIL-8産生に関しては上昇させる一方で,TNF-α産生を抑制した,亜ヒ酸曝露によるIL-8産生上昇に関与するシグナル経路を検討したところ,亜ヒ酸はp38MAPKのリン酸化を増強させた. 亜ヒ酸に曝露したヒト培養NK細胞のキラー活性について検討を行った.その結果,亜ヒ酸に曝露されたNK細胞ではキラー活性が抑制された.さらに亜ヒ酸によるNK細胞のキラー活性の減少に関わる因子の探索の結果,抑制性受容体KIR2DL3の増加,活性化受容体CD16b及び細胞障害性因子であるGranzyme B, Perforin1の発現減少が検出された.次に,IL-2によるNK細胞の活性化に対する亜ヒ酸の影響を検討したところ,亜ヒ酸によりIL-10,TNF-β分泌量が有意に抑制された.また,障害性に関わるGranzyme B mRNAの発現も抑制された.これらの結果と付随して,IL-2によって活性化されるキラー活性が亜ヒ酸によって抑制されることを見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,ヒ素化合物による免疫担当細胞の機能障害に焦点を当てた研究内容であるが,平成24年度は培養細胞を用いて,その培養細胞が持つ機能に対してヒ素化合物が影響を与えているかについて検討を行った.本検討によりT細胞からのサイトカイン産生に対して,またNK細胞の細胞障害性およびサイトカイン産生に亜ヒ酸が影響を与えていることが明らかとなった.よって,本研究は「おおむね順調に進展している」と考える.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,マウス脾臓から分離・採取した免疫担当細胞にヒ素化合物を曝露,あるいはヒ素化合物を飲水にて長期的に曝露したマウスを準備し,曝露期間終了後のマウス脾臓から分離・採取した免疫担当細胞を用い,サイトカインや感染モデル化合物で刺激後のサイトカイン産生量をBioplexで測定する,さらにNK細胞に関しては癌細胞に対する障害性も検討する(ex vivo,in vivo).
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