研究実績の概要 |
東アジアを代表とする世界の各地域では慢性的なヒ素曝露による特異な症状が発生している。その中でもガンの発生は特異であり、普通化学物質の発ガン作用と言えば臓器特異的に発生するが、慢性ヒ素中毒による発ガンは多臓器にわたることからヒ素化合物による発ガン発生機序については不明な点が多い。そこで、本研究では、「生体の免疫機能がヒ素化合物によって障害を受け, それがヒ素による健康障害の増悪因子になったのではないか」と仮説を立て、研究を進めた。 前年までの結果から、亜ヒ酸に曝露されたNK92細胞では、ガン細胞(K562細胞)に対するキラー活性が減少していることから、その機序について詳細に検討した。亜ヒ酸に曝露されたNK92細胞において発現レベルが減少しているFasLigand(Fas-L)について検討をすすめたところ、亜ヒ酸曝露によって、Fas-Lの発現を制御するc-Myc発現も減少していることが明らかとなった。また、前年年度の結果から亜ヒ酸曝露により発現レベルの上昇が明らかとなった抑制性受容体KIR2DL3については、NK92細胞への高発現によってK562細胞へのキラー活性は有意に減少した。これらのことから、亜ヒ酸曝露によるNK92細胞のキラー活性の減少に関しては、c-Mycの発現減少を介したFas-Lの減少、ならびに抑制性受容体KIR2DL3の発現上昇によるガン細胞の認識に対する抑制系の活性化が関与していることが明らかとなった。 また、亜ヒ酸曝露によって変動した因子を網羅的に探索するために、亜ヒ酸を曝露したNK92細胞とcontrol細胞からtotal RNAを回収しDNA microarrayにて検討したところ、攻撃因子のFas-LやGranzymeBの発現はやはり減少している一方で、抑制性受容体CD300aの発現が亢進していることがわかった。
|