研究課題/領域番号 |
24310053
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山室 真澄 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (80344208)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 水質浄化 / 生態系サービス / 水草 / アメリカザリガニ / アサザ / ヨシ / ハス / ライギョ |
研究概要 |
今年度は大型実験池において、浮葉植物(ハス)と抽水植物(ヒメガマ)の競合実験を行った。またアメリカザリガニ捕食者(イシガメ、ライギョ)の有無によって、沈水植物(ガシャモク、ササバモ、コウガイモ、セキショウモ)の残存状態がどのように変わるかを検証した。前者の実験では、移植初年度において,浅水条件では浮葉植物が旺盛に繁茂して抽水植物を駆逐する可能性が示唆されたが、深水条件では浮葉植物の生長は著しく抑制されて抽水植物のみがわずかに残存した。夏季には浅水域から深水域へのハスの侵入が観察され,根茎伸長による繁殖力の高さが推定された。後者の実験では、イシガメは移動性が高く、特定の範囲の沈水植物の捕食を防御する効果は無かった。ライギョをいれた実験区画においては、沈水植物の繁茂が維持された。特にセキショウモの繁茂が著しかったのは、ライギョがこの群落に滞在することが多いためと推定された。 抽水植物や浮葉植物が繁茂することによって生態系サービスにどのような影響が生じるかについて、手賀沼のハス群落の抽水状態と浮葉状態において、水中の溶存酸素濃度や、堆積物中の硫化水素、メタン濃度を分析して定量化した。また、これまで水草群落中の流動は測器がないことから測られていなかったが、石膏球を用いることによって、流動についても定量化を試みた。本研究の結果から、抽水状態、浮葉状態双方において、流動の減少による酸素低下が認められた。特に浮葉状態でその影響は大きく、最も還元的な状態で派生するメタンが高純度で発生していることが分かった。 今年度はこの他に、浮葉植物アサザと抽水植物ヨシによるCOD増加の可能性を検討し、これらの植物の植栽によって水質が浄化することはないとの結論を得た
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本では一部で沈水植物が復活している一方で、自然再生事業として抽水植物や浮葉植物が植栽されることが多い。本研究では沈水植物が復活しない原因を、大型実験池を用いた実験、現地調査、衰退前の分布範囲の復元によって解明する。また欧米で湖沼生態系の回復手法として最も有効であるとされているシャジクモ類の復活による水質浄化効果を検討し、さらに、沈水植物が復活した水域で生じている悪影響を現地調査に基づいて整理し、その防止策を提案することで、持続可能な湖沼生態系サービスの利用に貢献することを目的としている。 シャジクモ類については、従来、アルカリバンドを形成するタイプのシャジクモ類が、石灰化とともにリンを吸着するとされてきた。これに対し本研究では、アルカリバンドを形成しないシャジクモ類でも石灰化していることを報告した(Kawahata et al. 2013)。また宍道湖では除草剤使用が始まる前までシャジクモ類が優占していたことを明らかにした(小室・山室、2013)。その宍道湖では食品中残留農薬の規制が強化されたことで除草剤使用量が減少し、沈水植物が大量に繁茂するようになった。繁茂している沈水植物はそれまでに繁茂記録がないオオササエビモが主体で、シャジクモ類は全く復活していない(山室、印刷中)。このことからシャジクモ類が繁茂するには、全国的に除草剤使用量を相当量下げなければ難しいことが予測された。 琵琶湖では沈水植物の現存量と湖水中の溶存酸素濃度が反比例の関係にあると報告されている。また宍道湖では2013年に塩分が上昇したことから、それまでに復活していた沈水植物がほとんど生えない状況で、残存した沈水植物が産卵床になるなどの現象が観察されている。このことから、沈水植物はその繁茂密度によって生態系サービスに与える影響が全く異なるとの新知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、沈水植物が繁茂しない原因のひとつが除草剤であり、もうひとつがアメリカザリガニによる食害であることが、ほぼ確実になった。2016年に開始した残留農薬規制が水生植物に与えた影響は、大型植物だけでなく、植物プランクトンにも及んでいる可能性がある。実際、宍道湖では沈水植物の復活と同時に毎年アオコが発生するようになった。霞ヶ浦でも2007年以降、アオコが発生するようになっている。湖沼については地方性が高いことから、全国的にどのような現象が起こっているのか、水質以外は比較できる報告が公表されていない。今後は湖沼生態系の状況について、水質以外の項目についても比較する研究が必要である。 琵琶湖や宍道湖では沈水植物の、手賀沼では浮葉植物であるハスが生態系に与える影響が問題になり駆除が求められているが、効果的で安価な駆除法は知られていない。農業が近代化される以前は、水草類が肥料材料として大量に採草されることで、湖沼が持続的に人間に利用されていたと考えられる。採草漁が廃れた今日において、それが果たしていた機能をどのように代替するかの研究が必要である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度には大型水槽を用いて、水草の生育実験を行う予定だった。大型水槽の造成に当たって、補強などの当初予定していなかった行程が必要であることが分かり、予定していた時期までに工事が行われなかったので、実験は平成26年度に行うことになった。このため翌年度分として請求した研究費と合わせて、実験に使用する土砂などの消耗品を購入して研究を進める。 土砂、大型コンテ、水面からの位置を調整するための脚立などの消耗品の購入に使用する。
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