本研究は、日本の平野部にある湖沼の多くで沈水植物が復活しない原因を、大型実験池を用いた実験、現地調査などによって解明することと、沈水植物が復活した水域で生じている悪影響を現地調査に基づいて整理し、その防止策を提案することを目的としている。最終年度であるH26年度は前年度に続いて、沈水植物を植栽した大型実験池での観察を行った。5月には沈水植物の発芽が認められ、また緑藻類も繁茂していた。しかし7月になって沈水植物も緑藻類も消滅した。一方、ハスやヒメガマなどを植栽した別の池ではどちらも繁茂していた。この状況はハスや抽水植物だけが残っている現在の手賀沼と一致する。手賀沼で沈水植物が消滅した時期は水田除草剤使用開始時(1950年代後半)である。実験池においても6月に集中豪雨が生じて水田から流出した水が流れ込んだ可能性が高いこと、また沈水植物だけでなくアメリカザリガニの食害を受けない緑藻も消滅したことから、除草剤の影響で消滅した可能性が高いと判断した。このことから沈水植物の1種であるセキショウモの実生を使って、水田からの排水が発芽に与える影響を検討した。使用したのは霞ヶ浦流入河川上流部で降雨時に採水した河川水である。霞ヶ浦も手賀沼同様、沈水植物は復活していない。実験の結果、河川水で育てた実生は芽や根を伸ばすことなく溶解した。実験水からは除草剤成分は検出できなかったが、分子量が249で水溶性の物質が高濃度に検出されたことから、この成分が原因である可能性がある。宍道湖では水田除草剤の使用量が減少した2007年頃から沈水植物が生えるようになったが、塩分上昇により沈水植物が繁茂できない年には植物プランクトンの1種である珪藻が繁茂した。この時、二枚貝ヤマトシジミが珪藻を餌として濾過することで、沈水植物繁茂時より透明度は高くなっていた。
|