研究課題/領域番号 |
24310064
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
沼子 千弥 千葉大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80284280)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ヒザラガイ / 生体濃縮 / 原子吸光 / PIXE |
研究実績の概要 |
石巻、沖縄、徳島で採集したヒザラガイの歯舌を樹脂包埋し、正中線まで研磨を進めた切片試料に対し、マイクロPIXEによる2次元元素マッピングを行った。ヒザラガイの歯の摂餌面には鉄、背面にはリン酸カルシウムが濃集するが、その他摂餌面にはCo, Cu, Niが、背面にはSrなどのアルカリ土類金属と希土類元素がそれぞれ微少量共存することがわかった。Srについては、主成分であるFeの輻射の影響で、はじめはPIXEでの検出が困難であったが、プロトン入射の出力を押さえたところ、良好にSrのピークが検出できるようになった。このモードでヒザラガイの歯舌試料のPIXE分析を続行したが、地域差を見ることができなかった。 これと平行して、歯舌のマトリクスであるキチンに対するCaとFeの吸着能を評価するために、実験室系での吸着実験を行い、金属吸着量を原子吸光度法で測定した。多糖質であるキチンは官能基をリン酸化することにより、より高い金属イオンの吸着を示すことが期待されたため、通常のαキチンとリン酸化したキチンについて、海水と同じpH条件下における吸着能の差異を比較した。その結果、リン酸化により、Ca, Feの吸着能が向上することを確認した。同様の吸着実験をヒザラガイの歯舌のキチンで実施したが、原子吸吸光の検出範囲では優位な金属吸着を観察することができなかった。また、CaとFeの共存状態ではCaの吸着はFeよりも低かった。この理由を解明するために、次年度はキチンに吸着したCaとFeの化学状態分析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
天然に生息するヒザラガイの採集について、沖縄・徳島などの非汚染地域では計画通り実施することができたが、東北地方、特に福 島県の海岸域について、複数回採集を試みたにもかかわらず、ヒザラガイを発見することができなかった。これは、2011年の地震と津波の影響で海岸域の生態系がまだ十分回復していないこと、ヒザラガイの生息する岩礁帯が立ち入り禁止区域に多く存在し、現時点では採集を実施できないことが大きな原因である。宮城県中部の石巻の海岸では十分数のヒザラガイの生息を確認することができたが、これらについては放射性同位体の濃集を確認することができなかったため、福島県でのヒザラガイを入手することが重要であり、平成26年度では、これを達成することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
まだ実現できていない、福島地域でのヒザラガイの採集地域検索を実施する。オーストラリアでのヒザラガイの採集も実施し、元素濃集の種による差異や地域差について、日本と対応させながら検討する。同時に、日本でのヒザラガイの採集についても、継続して実施し、経時変化についてもデータを蓄積する。できていない、福島地域でのヒザラガイの採集地域検索について重点を置く。 ヒザラガイの歯舌の形成環境と同様の、常温・常圧、中性付近での湿式による磁鉄鉱形成を、実験室系で再現することを試みる。この検討は既に九州大学理学部化学の横山拓史教授と共同で始めており、合成環境の中で鉄を酸化・還元する共存元素が存在すると、中性 付近でも磁鉄鉱が選択的に形成されることを予備的な知見として得ている。これに、本研究で計画している、ヒザラガイの体内での鉄化合物の動態が加わると、磁鉄鉱形成に関連する鉄化合物とその存在器官を特定することができ、またその部位の共存元素から、実験 室系でのヒザラガイの磁鉄鉱形成再現のためのシステムを設計することが可能となる。 加えて、ヒザラガイの歯舌の基質となっているキチンの共存下、もう一つの主成分であるリン酸カルシウムの共存下で、磁鉄鉱の形成がどのように進行するかを観察する。さらに、キチン表面の官能基修飾やキチンの結晶の配向などにより、磁鉄鉱の自己組織化が可能になる条件を模索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
福島でのヒザラガイ採集が予定通りには実施することができなかったため、当初予定していたオーストラリアでのヒザラガイ採集も次年度で実施することとし、この分の旅費の執行が来年度に持ち越された。
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次年度使用額の使用計画 |
オーストラリア、沖縄地方、徳島、福島でヒザラガイ採集を実施する際の旅費とレンタカー代として使用する。
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