近年、ナノ粒子を応用した製品が多数市販されているが、ナノ粒子が生体に及ぼす影響は不明な点が多く、そのメカニズムの解明は社会的急務である。本研究では、食物連鎖の底辺を支える微生物、植物を対象としてナノ粒子の毒性影響を明らかにするとともに、ナノ粒子が上位の生物界に与える影響を考慮したナノ粒子の環境毒性評価法を提案することを目的とする。 微生物を対象としたナノリスク評価では、糸状菌A. oryzaeとA. nidulansをモデル細胞として、等張液中においてPSLナノ粒子の毒性実験を行った。その結果、イオン強度の低いスクロース溶液中では、静電相互作用により細胞表面がナノ粒子により被覆して細胞は死滅することが分かった。一方、イオン強度の高い生理食塩水中では、ナノ粒子はA. oryzae細胞に取り込まれたが、A. nidulans細胞には取り込まれず、細胞壁で捕捉されることが分かった。これは細胞のyoung率の違いに起因していることを原子間力顕微鏡測定により示した。また、寒天培地で培養した糸状菌を用いてナノ粒子の暴露実験を行うと、両親媒性タンパク質Hydrophobinが生成されて細胞表面を保護するため、ナノ粒子が付着しないことが分かった。複合微生物を対象としたナノリスク評価では、次世代シークエンサーを用いて、メタン生成細菌のOTU(一種類の細菌種であると判断する分類上の単位)検出に成功した。その結果、嫌気複合菌叢中において、酸化亜鉛ナノ粒子がメタン生成細菌に対して毒性を発現することを新たに見出した。植物細胞を対象としたナノリスク評価では、花粉管や根のような伸長細胞に対して、溶解した亜鉛イオンだけでなく、酸化亜鉛ナノ粒子が直接毒性を及ぼし、その伸長成長を阻害するナノリスクが発現することを明らかにした。
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