研究課題/領域番号 |
24310072
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
河裾 厚男 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 研究員 (20354946)
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研究分担者 |
前川 雅樹 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 研究員 (10354945)
深谷 有喜 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 研究員 (40370465)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | スピン偏極陽電子 / 電子運動量分布 / 陽電子消滅寿命 / 電子スピン / 強磁性体 / ホイスラー合金 / 電流誘起スピン蓄積 / 原sに空孔誘起強磁性 |
研究概要 |
①スピン偏極陽電子消滅(SP-PAS)の基礎構築:面直磁化させた各種の単元素磁性体について得られた電子運動量分布の磁場反転スペクトルを、バンド及びスピン毎に電子運動量分布を計算することで理論的に再現する方法を確立した。鉄中の陽電子消滅寿命の磁場反転効果を観測し、これが理論計算による期待値と良く一致することを確認した。 ②SP-PAS法によるハーフメタルスピン注入効果の研究:マグネトロンスパッタ法により作製したL21型ホイスラー合金Co2MnSiを面内磁化させ、そこに横スピン偏極陽電子を打ち込んで電子運動量分布の磁場反転効果を観測した。その結果、鉄などの単元素強磁性体とほほぼ同等の偏極効果が得られた。Co2MnSiはフェルミ面近傍で100%に近いスピン偏極率を持つと考えられている。上の結果は、陽電子波動関数が、深いエネルギー準位にある電子波動関数とも重なりを持つためと考えられる。Cu基板上にCo2MnSiを成膜した系において、強磁性層から非磁性層へのスピン注入効果を観測する予備実験に着手した。 ③SP-PAS法による電流誘起スピン蓄積効果の研究:Ta、W、Pd、Pt超薄膜単結晶を作製し、スピン偏極陽電子ビームを用いて電流誘起スピン蓄積効果を調べた。その結果、最外殻d電子軌道の占有状態に応じたスピン軌道相互作用の符号反転に伴い、最表面に蓄積するスピンの方向が変化することを見出した。 ④SP-PAS法による原子空孔誘起強磁性の研究:SiC、SnO2、CeO2、ZnO単結晶に粒子線照射をすることで原子空孔を導入し、電子運動量分布の磁場依存性を観測した。理論が予測している原子空孔の強磁性的効果は、今のところ見いだされていない。他方、ZnOナノ結晶(粉末凝固体)については、陽電子消滅位置の原子空孔に局在する電子がスピン偏極していることを示唆する電子運動量分布の磁場反転非対称度が観測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
スピン偏極陽電子消滅(SP-PAS)の基礎構築については、電子運動量分布と消滅寿命に何れについても実験結果を定量的に説明できる理論手法の確立に至った。 ハーフメタルスピン注入効果の研究では、単結晶試料の作製や電子運動量分布の磁場反転効果の観測成功するとともに、強磁性層から非磁性層へのスピン注入効果を観測する予備実験に着手することができた。 Ta、W、Pd、Pt超薄膜単結晶の電流誘起スピン蓄積効果の研究で得られたスピン蓄積方向の反転効果は、電流誘起スピン蓄積がスピン軌道相互作用に支配されていることを明確に示した。 原子空孔誘起強磁性の研究では、理論的に予測されている酸化物金属中の原子空孔の強磁性効果は得られていないが、ナノ結晶についてはそれを強く示唆する結果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
スピン偏極陽電子消滅(SP-PAS)の基礎構築については、実験・理論双方の成果を盛り込んだ論文を執筆してまとめる。 ハーフメタルスピン注入効果の研究では、磁化した強磁性層から非磁性層に電子を注入し、そこにエネルギー可変のスピン偏極陽電子ビームを打ち込むことでスピン注入効果の深さ依存性の観測に挑む。 電流誘起スピン蓄積効果の研究では、対象をこれまでの重金属系から巨大ラシュバ系やトポロジカル絶縁体に拡張して最表面のスピン偏極効果を観測する。これにより、電流誘起スピン蓄積の起源の一端を解明する。 原子空孔誘起強磁性の研究では、各種の金属酸化物のナノ結晶について重点的な実験を行い、原子空孔に起因する強磁性効果の有無を確認する。 スピン偏極陽電子を用いたスピントロニクス材料の一層の評価研究のために、さらに新しい分光技術の開発を模索する。
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