研究実績の概要 |
①スピン偏極陽電子消滅の基礎構築:強磁性体の多数・少数スピンバンドに対応する二つのバルク寿命は、バンド計算と直接比較可能な多数・少数スピンバンドの間の電子運動量分布の差分を得る上で重要である。しかし、スピンに依存した二つのバルク寿命についての実験的な検証はなされていない。本研究の結果、Fe,Co,Niの多数・少数スピンバンドに対応する陽電子寿命の差が11ピコ秒、4ピコ秒、-6ピコ秒と決定された。Feについて多数・少数スピンバンドの電子運動量分布の差分を求めたところ、第1原理計算の結果と良く一致していることが確かめられた。 ②SP-PAS法による電流誘起スピン蓄積効果:Ta,W,Pd,Pt最表面の電流誘起スピン蓄積について理論考察を進めた結果、陽電子がプローブする表面層の極めて低い電子密度とラシュバ効果を考慮することで、観測結果が定量的に説明できることが明らかになった。さらにラシュバ系として知られるBi/Ag二層膜について実験を行った結果、界面で発生した余剰スピンがBiとAg層を伝導して表面に蓄積することが見いだされた。スピン偏極率と膜厚の関係から求めたスピン拡散長が、従来の結果と良く一致していることが分かった。 ③SP-PAS法による原子空孔誘起強磁性:電子線照射した金属酸化物では強磁性は観測されなかった。これは原子空孔濃度が低く交換相互作用が十分でないためと考えられる。そこで酸素イオン照射により高濃度の原子空孔を導入した結果、SnO2とZnOのカチオン空孔に対する電子運動量分布が磁場反転効果を示し、第1原理計算による予測と良く一致していることが判明した。この結果は原子空孔における磁気モーメントの存在を示すものであり、原子空孔誘起強磁性の直接証拠である。
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