研究概要 |
複数の量子ドットを含む光学構造内では多数の無相関光子が生成し、光子の単一性を低下させる。また同一ドット内においても中性励起子の他、荷電励起子の様な励起子複合体も形成され、それら中性-荷電状態間では常に数ナノ秒オーダーの遷移を繰り返している。従って量子ドットの励起ダイナミクスの知見獲得は高効率光子源に向けて基本的であり、これを数ナノ秒オーダーの高い時間分解能で追跡可能な2次の光子相関測定により評価した。本年度は励起強度・励起エネルギーの2つの観点から単一量子ドット励起ダイナミクスの評価し、特に定量的な検討を進めた。 単一QD 内で形成される|Vac>, |X0>, |XX0>, |e->, |X+> の5準位系の状態間遷移から各準位間のキャリア移動をモデル化したレート方程式を立式し、分布の時間発展から相関関数を導出した。電子の供給・逃避レートγin,γout のみでなく、正孔の供給, 逃避レートγ′in, γ′out も考慮した遷移モデルを採用した。各相関関数に対応する初期条件下での分布の時間変動から実験と対応可能な相関関数のシミュレーションを行った。 パラメータを適切に設定することにより、実験的に得られた5つの相関関数の特徴をほぼ完全に再現することに成功した。電子捕獲の影響が大であるのに比べ、正孔による量子ドット内励起の寄与は小さいこと等が定量的に示された。またこれらの結果がγin をはじめとする全ての励起レートが励起光によって生成されたものであり、またそのレートの相互関係は励起強度では変化しないことを示唆している。また、この励起機構は結晶の準位構造によって決定されたものであり、励起光の強度変化では制御されないことが示された。従って量子ドット励起ダイナミクスの制御には、励起エネルギーがより本質的な決定要因であると考えられる。
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