研究課題/領域番号 |
24310094
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
本間 芳和 東京理科大学, 理学部, 教授 (30385512)
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研究分担者 |
山本 貴博 東京理科大学, 工学部, 講師 (30408695)
岡田 晋 筑波大学, 数理物質科学研究科(系), 教授 (70302388)
千足 昇平 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (50434022)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ナノチューブ / 光物性 / 水 / ナノ空間 |
研究概要 |
単層カーボンナノチューブ(SWNT)のナノ表面とナノ空間における水分子の構造と物性の解明を目的として、分光実験および理論計算による研究を推進した。 SWNTの内部空間に存在する水分子に関して、SWNTの蛍光スペクトル解析から水の存在形態を検討した。この結果、SWNT内部に導入された水分子は、分子数が少ない場合でもSWNTの内部に希薄に分布するのではなく、水分子のクラスタを形成し、SWNTの内部空間は空の部分と水分子で密に満たされた部分とに相分離することが分かった。水分子数の増加とともに空の部分が埋め尽くされ、最終的に内部空間が水分子で飽和する。このことは、直径1 nmのナノ細孔において水分子が安定して存在できる最小サイズが存在し、SWNTの外の蒸気圧の増加とともに、クラスタ数およびサイズが増加していくことを意味する。 SWNTの外側への水分子吸着がSWNTの振動特性に及ぼす効果として、昨年度、直径 1 nm付近のSWNTの動径呼吸モード(RBM)の振動数が水吸着により高波数側に5~7 cm-1ほどシフトすることを明らかにした。今年度は、力学モデルによる解析と分子動力学計算から、RBM振動数のSWNT直径依存性に対する一般式を導出した。これにより、従来は経験的に求められていたRBM振動数とSWNT直径との関係式における環境効果に対し、理論的な裏付けを与えることができた。 また、SWNTと吸着分子との相互作用解明の一環として、DNAを対象とした検討を行い、純粋にDNAだけが吸着した状態での蛍光スペクトルを得ることに成功し、蛍光スペクトルからDNA吸着を定量的に評価できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SWNT内部の水の存在形態に関する新たな知見を得て、Journal of Physical Chemistry Letters誌に掲載した。また、RBMラマン散乱振動数に対する環境効果を実験・理論両面から解明した。DNA吸着に関しても蛍光スペクトルから有用な情報が得られることを見出した。一方、環境制御用真空チャンバの立ち上げに時間がかかり、温度依存性の研究の実施が計画より遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
・これまで理想的なSWNTサンプルである架橋SWNTに対し計測を行ってきたが、これに加えて基板表面に垂直配向したSWNTも蛍光発光し架橋SWNTと類似した吸着脱離現象を示すことが分かってきた。これまで架橋SWNTで得てきた知見を元に、垂直配向SWNTでの吸着脱離現象の解析を行うことで、SWNTにおけるより一般的な吸着現象の理解を進めていく。 ・環境制御用真空チャンバを用い、-10℃~50℃までの温度制御下でのSWNTへの水吸着・内包実験を実施する。 ・ナノ空間での水や物質の状態図を作成する。 ・水、DNA等の様々な吸着分子に対する蛍光およびラマン散乱に対する標準スペクトルを得て、吸着分子の状態分析を可能にする。
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次年度の研究費の使用計画 |
ほぼ使用計画額通りに使用したが、187円の端数が生じたため、次年度に繰り越した。 187円を物件費に上乗せする。少額であるので計画に影響を及ぼさない。
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