研究課題
本研究では、過去のものとなったテレビジョン撮像管技術を現代のナノ材料・ナノ計測技術で蘇らせ、表面近傍の光学像を分解能数10nm、無染色で実時間撮像する電子走査型超解像光学顕微技術へと発展させることを目指している。具体的には、光波長よりもはるかに薄い撮像面上に置かれた対象物を照明し、裏面から電子ビームで光波長よりもはるかに小さな空間分解能で走査することにより、近接場光強度分布を電子的に読み出す、これまでにない超解像光学顕微鏡を構築する。当該年度は、前年度に構築していた電子ビーム走査系、真空下試料交換機構、微小電流測定系、光ファイバ入出力系を利用したフライングスポットスキャナ方式による超解像光学顕微鏡システムを完成させた。撮像面にはSiNメンブレンに有機蛍光色素膜を塗布したものを用い、上面に電子ビームをスポット照射し、下面に試料を付着させる。様々な屈折率のナノ粒子を観察し、回折限界を超える62nmの分解能が得られることを示した。また、モンテカルロ法による電子ビーム散乱特性、マックスウェル方程式によるダイポール放射特性の解析により、像形成機構を明らかにし、得られた画像の様々な特徴が理論的に説明できることを示した。さらに、上記発光メンブレンを真空と大気環境を隔てる隔壁として用い、内部に細胞を生きたまま密閉できる環境セルユニットを完成し、生きた細胞を無染色で回折限界を超える分解能で観察できることを実証した。観察後にも細胞が生きたままであることは観察後に生死判定蛍光染色法により確認した。以上の成果について、特許出願、論文発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
前年度はシステム構築に終始した点で遅れていると判断したが、並行して前倒しで進めていた各種シミュレーション手法の習得、細胞の取扱い技術の習得、環境セルの開発のすべてが有機的に結合し、1つの電子ビーム走査型顕微鏡システムとして結実したことをもって、遅れを挽回したと判断した。極薄撮像メンブレンと極微小電子ビーム走査による近接場光学撮像という抜本的なアイデアの実証には成功したが、これはあくまでも通過点であり、本研究で究極的に目指す直積型撮像膜(AgあるいはAu粒子を用いたアイコノスコープ方式、光導電性半導体膜を用いたビジコン方式)のいずれでもない。その点で計画以上の進展とは見なせない。
最終年度である本年度は、残された課題である、蓄積型撮像膜をどう実現するかを明らかにせねばならない。そのために、AgまたはAuナノ粒子の紫外光による光電子放出の結果、基板との間で形成される微小コンデンサに電荷蓄積が起こるか、さらに、それを電子ビーム走査、微小電流測定により検出可能かを明らかにすることに注力する。Ag,Auナノ粒子としては、最初は扱いやすい100~1000nmレベルの粒子あるいは極薄蒸着膜の熱処理により得られたアイランド膜を用いる。結果に応じて徐々に微小化し、最終的には目指す分解能である数10nmよりも微小なナノサイズの粒子まで検討する。場合によっては微細加工により制御されたナノ粒子アレイを作製し、見通しの良い系で実験することも検討する。
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