我が国においても生殖補助医療における体外受精の件数は年々増加しており、またその約半数で顕微授精(ICSI)が適用されている。これまで我々はICSIによって受精したマウス個体には、従来の体外受精(cIVF)によって受精したマウスと比較して、共通の遺伝子発現パターン変化が生じていることを明らかにした。これはICSI技術そのものがゲノムのエピジェネティックな修飾に影響を及ぼすことを意味しており、ヒトにおけるICSIの安全性の確認が重要であると考えている。 本研究はヒトの初期発生胚に及ぼすICSIのエピジェネティックな影響を明らかにし、その評価法を確立すること、さらにマウスモデル系において、原因となる機構を解明しICSI技術の向上・改善を目指すものである。 これまで本研究では、マウスの初期胚を用いT7 RNA polymeraseを用いた増幅法により、単一胚からの遺伝子発現プロフィールを取得する実験系の検討を行い、ごく微量のサンプルから高い再現性でのデータ取得できるプロトコールを確立した。そこで、生殖補助医療において、ICSIおよびcIVFによって受精した胚で、移植に用いられず廃棄される胚の提供を受け、遺伝子発現プロフィールを次世代シークエンサーを用いたRNA-seqにより解析した。その結果、胚盤胞期のヒト胚においてICSIによって発現の違いを示す遺伝子を複数同定することに成功した。これらの遺伝子の発現や、そのエピジェネティックな修飾は、ICSI技術の改善のための有用なマーカーとなることが期待される。マウスの初期胚におけるICSIの影響の解析結果と併せ、研究成果を現在投稿準備中である。
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