研究課題/領域番号 |
24310150
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研究機関 | 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構(新領域融合研究センター及びライフサイ |
研究代表者 |
馬場 知哉 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構(新領域融合研究センター及びライフサイ, 新領域融合研究センター, 特任准教授 (00338196)
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研究分担者 |
阿部 貴志 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (30390628)
松浦 俊一 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 化学プロセス研究部門, 主任研究員 (80443224)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 極地 / ゲノム / 進化 / 特殊環境 / 微生物 / 低温 / 環境適応 / 共生 |
研究実績の概要 |
本研究は大陸移動により地球上で最も過酷な環境変動(極低温、貧栄養、白夜/極夜の特殊な日照条件など)をした南極大陸上における生物の環境適応や進化、多様性の獲得に関する知見を得ることを目的として、日本の昭和基地に近い南極大陸上の湖沼底で発見された「コケ坊主」生物圏から培養可能な微生物を単離し、それらのゲノム解析に取り組んできた。16S rRNAクローン解析からコケ坊主の生物圏は少なくとも562種の細菌で構成されていると考えられ、その内の12種の培養可能な細菌株の単離に成功し、それらのゲノム解析に取り組んだ。 ゲノムの全塩基配列決定をした南極コケ坊主のPseudomonas属細菌HMP1株と、北極スピッツベルゲン島の湖沼から分離されたPseudomonas属細菌ArSA株について、他の大陸で分離された近縁のPseudomonas属細菌のゲノム情報との比較から、ゲノム上に保存されている遺伝子について調べたところ、生育温度とタンパク質を構成するアミノ酸組成に強い相関が示され、さらに使用されるコドンでも生育温度との相関が見出された。南北両極のPseudomonas属細菌のゲノム上の遺伝子において、アミノ酸の組成レベルでは疎水性を減らし、親水性を増やすなど、低温でのタンパク質の機能(構造的柔軟性および酵素活性)を高めるアミノ酸への置換が認められた。また、コドンレベルではGCからATへの置換と低温への適応の関係性が示唆され、特にアミノ酸の置換を伴う第1コドンでのGCからATへの置換が顕著であった。一部のアミノ酸あるいはコドンについては南北両極のPseudomonas属細菌で差異が認められ、これらは南北両極で地理的に隔離され、進化的にもそれぞれ異なる種分化が認められながらも、極域の低温環境への適応にゲノムワイドで平行的に進化した痕跡であると考えられた。これらの知見を論文として投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では、今年度を本研究課題の最終年度として完結をめざし鋭意努力してきたが、投稿論文の採択にまでは至っておらず、研究期間を1年延長することで、本研究課題における未公開の研究成果を含め複数の論文として投稿し公開をめざすこととした。 この中の一つとして、ゲノム解析中の南極コケ坊主の12種の細菌株ゲノム上には、他の大陸で分離された近縁種のゲノム情報と比較したところ、遠縁種からの水平伝播遺伝子の遺伝子の割合が高いことが示唆されている。それについては、研究分担者が生命情報学的にゲノム上の水平伝播遺伝子を詳細に比較解析する手法の開発に取り組み、その実用化に成功すると共に、より具体的な検証への道筋を立てるに至っている。さらに、コケ坊主の生物圏とは南極大陸上で反対側に位置する湖沼から分離されたPseudomonas属細菌P. antarctica CMS35株のゲノム解析を行い、その比較解析から南極大陸上での互いに近縁なPseudomonas属細菌間での南極環境への適応進化と生存戦略の違いを明らかにしつつある。 これらの研究成果について、研究期間を1年延長することで、それぞれ論文として投稿し公開をめざしていく。
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今後の研究の推進方策 |
本研究がめざす南極の過酷な環境への生物の適応や進化、多様性の獲得に関するゲノムレベルでの解明には、高精度のゲノムの塩基配列解読と生命情報学的な解析手法が不可欠である。これまでに、研究協力者の献身的な協力により、日本の南極観測隊が採取に成功した貴重な南極コケ坊主試料から12種の細菌株の分離に成功し、それらの高精度のゲノムの塩基配列の解読も達成され、さらに研究分担者の尽力により、生命情報学的にゲノム上の水平伝播遺伝子を詳細に比較解析する手法の開発と実用化に成功した。これらを統合し、既に論文を投稿中のPseudomonas属細菌での比較ゲノム解析の知見も含めて、本研究で得られたゲノム解析情報および知見に関する論文を通じて、延長した研究期間の1年以内の研究成果の公開をめざすと共に、より高次の新たな研究課題への発展性を模索する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の研究成果を論文にして投稿しているが、採択にまでは至っておらず、論文の採択までには追加の実験、英文校正、論文掲載の諸経費が必要となり、これらは次年度に生じる経費となるため。さらに、後続の論文の投稿も計画をしており、その費用も必要となるため。
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次年度使用額の使用計画 |
使用計画については、追加の実験に要する試薬・消耗品の経費(物品費)、研究分担者および研究協力者との投稿論文に関する打ち合わせと研究成果の学会での発表のための経費(旅費)、論文の英文校正に要する経費(人件費・謝金)、さらに論文の掲載料と学会の参加費、一部の追試に関しては外部への受託のための経費(その他)を予定している。
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