前年度の課題として実験者毎の再現性の問題があったが、反応容器や酸素の供給方法等を検討することにより元の反応速度に近い結果を得ることができたので、シスプラチン付加体、塩基欠落部位、(6-4)光産物のそれぞれを有し主溝を挟んで二つのメルカプトブチル基またはメルカプトプロピル基を持つ計6種類の2本鎖について、HPLCのピーク面積を求めて原料の消失と鎖間ジスルフィド結合の形成をグラフ化した。その結果、固定された折れ曲がりを有するシスプラチン付加体の場合にはジスルフィド結合の形成速度がアルキル鎖の長さに依存したのに対し、塩基欠落部位と(6-4)光産物ではいずれも同様にその依存性が見られなかったことから、これらの損傷を有するDNAの動的構造変化を捉えることができたと結論づけた。 次に、この方法をタンパク質のDNA認識機構の解明に応用することを目指した。研究代表者らは以前にヌクレオチド除去修復の損傷認識においてUV-DDBタンパク質が損傷部位に結合してDNAを折り曲げることを明らかにし、次に働くXPCタンパク質はそのようにして形成されたDNAの折れ曲がり構造を認識するのではないかというモデルを提唱した。これを証明するためにジスルフィド架橋により固定された折れ曲がりDNAを利用することにしたが、(6-4)光産物を有するDNAには架橋なしでもXPCタンパク質がある程度結合したため、損傷としてシクロブタンピリミジンダイマー(CPD)を使用した。また、前年度に解明されたNMR構造ではメルカプトブチル基を用いた場合にベンド角が非常に大きかったため、メルカプトペンチル基も試した。架橋されたCPD DNAを32Pで標識しXPCタンパク質と混ぜてゲル電気泳動を行うと、架橋がない場合と有意な差で複合体のバンドが検出された。この結果は、上記のDNA認識モデルが正しいことを示している。
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