研究課題/領域番号 |
24310159
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
荒井 雅吉 大阪大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (80311231)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 感染症 / 結核 / 抗菌物質 / 活性天然物 / ケミカルバイオロジー |
研究概要 |
前年度から継続して、結核菌感染部位とその微小環境での菌の特性(低酸素環境適応、低pH環境適応、炭素源要求性変化およびバイオフィルム形成)に着目した4つのスクリーニング系を用いて、独自に保有する海綿などの底生海洋生物の抽出エキスおよび海洋由来微生物の培養抽出物ライブラリーを対象に活性物質の探索を進めた。その結果、抗結核薬イソニアジドに対して抵抗性を示す低酸素環境でも抗菌活性を示す化合物として、海洋由来真菌の培養抽出物からphomaligol Aを見出した。また、低pH環境選択的に抗菌活性を示す化合物として、インドネシア産海綿からBr化脂肪酸を単離した。さらに、プロピオン酸を炭素源とする培養環境選択的に抗菌活性を示す化合物して、海綿由来のテトラミン酸melophlin類を見出すことに成功した。現在もいくつかの海綿抽出物および海洋由来真菌の培養抽出物から活性物質の精製を進めている。 一方、見出した抗菌物質の標的分子についても解析を実施した。海綿由来のジテルペンアルカロイドagelasine Dについては、前年度の検討でagelasine Dの標的分子候補として見出した、dioxygenaseと予想されるBCG3185cリコンビナントタンパク質を調製して、これが、agelasine Dと直接結合することを明らかにした。また、海洋由来放線菌の二次代謝産物nybomycinの標的分子についても解析を進め、特定のタンパク質と結合するのではなく、DNAと結合することを示唆する知見を得た。 さらに、前年度見出した、低酸素環境選択的に抗菌活性を示す海綿由来のアルカロイド化合物について、その全合成およびアナログ化合物合成を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画通り4つの評価系を用いるスクリーニングを実施し、3種類の活性物質を見出すことに成功した。また、前年度見出したagelasine Dについては、その結合タンパク質の同定にも成功し、新しい薬剤標的分子の開拓に繋げた。さらに、見出している他の抗菌物質についても、ゲノムDNAライブラリーを利用する標的分子解析法を中心に検討を進めており、順調にその成果が得られつつある。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も継続してスクリーニングを進め、新規医薬シーズの創出を目指した検討を進める。また見出した抗菌物質の毒性評価やin vivoでの評価を実施する。一方、見出した抗菌物質の標的分子解析については、プロピオン酸を炭素源とする培養環境選択的に抗菌活性を示すmelophlin類の結合タンパク質を明らかにすることを目指す。さらに、全合成およびアナログ化合物合成を開始した海綿由来のアルカロイド化合物について、合成化学的な検討を早期に終了させ、医薬シーズとしての有用性の検証ならびに標的分子の解析を実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画では、海洋由来放線菌の二次代謝産物であるnybomycinの標的分子解析を進めるにあたり、研究補助者として大学院生の協力を仰ぎ、必要な遺伝子のクローニングおよび形質転換株の作成などを実施する予定であった。また、これに伴う謝金や物品費を計上していた。しかし今年度の研究過程で、nybomycinが特定のタンパク質ではなく、DNAを標的にしていることを示唆する知見が得られたため、予定していた遺伝子クローニング等を一時中断して、得られた知見を確認するための基礎検討を研究代表者が実施する必要が生じた。このために予定の予算を一部執行しなかった。 今年度の基礎検討の結果、nybomycinの標的分子解析の方向性および研究推進に必要な遺伝子等を決定することができた。次年度は、決定した研究計画に従い、謝金にて大学院生の協力を仰ぐとともに必要な物品を購入し、nybomycinの作用メカニズムおよび標的分子を完全に明らかにする予定である。
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