研究課題/領域番号 |
24310161
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
前田 明 藤田保健衛生大学, 総合医科学研究所, 教授 (50212204)
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研究分担者 |
片山 泰一 大阪大学, 連合小児発達学研究科, 教授 (80333459)
武藤 裕 武蔵野大学, 薬学部, 教授 (30192769)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 遺伝子発現 / スプライシング / HMGA1 / Presenilin-2 / 癌 |
研究概要 |
(1)異常スプライシング誘導因子としてのHMGA1a蛋白質の構造と機能を調べる HMGA1a-標的RNA (PS2) を用いた実験では、残念ながらPS標的RNA断片のみの結晶が生じてしまった。共結晶のための好条件を探るためには、その相互作用を詳細に検討する必要がある。リコンビナントHMGA1a蛋白質を用いた超好感度等温滴定型カロリーメータ(ITC)による定量的な解析で、PS2遺伝子産物のエクソン5の標的配列(GCUGCUACAAG)に塩基配列特異的な結合を示した。さらにこの相互作用を分析超遠心機を用いて解析する予定であったが、結合強度の指標となる解離定数 (Kd)が予想より低く、この方法での解析が難しいことがわかった。 (2)HMGA1が異常スプライシングを誘導しているPS2以外の標的遺伝子を探索する HMGA1aの新たな標的基質RNAとして、エストロゲン受容体(ER)遺伝子産物が見つかった。分子生物学的・生化学的分析により、ERαの選択的スプライシングに重要であることがわかった。すなわちHMGA1a蛋白質は、選択的スプライシングによるアイソフォーム産物ERα46の発現を減少させることを in vitro スプライシング実験で明らかにした。乳癌症例のさまざま悪性度における HMGA1aの発現とERαの選択的スプライシング産物ERα46の発現を比較する予定であったが、HMGA1a の標的配列を「おとり」として安定発現させた乳癌細胞株(MCF-7)を使用したヌードマウスの腫瘍実験では、HMGA1aの「おとり」RNA結合によるERαの選択的スプライシング産物の発現に差がないことがわかった。ヌードマウスの腫瘍では、「おとり」RNAによるHMGA1aのRNA結合阻害がHMGA1aの発現を増加させるので、フィードバック機構の存在が示唆され、これが動物での検討を難しくしている原因と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
HMGA1a-標的RNA複合体の構造決定で共同研究してもらっている武藤裕チームリーダー(研究分担者)が、昨年度に武蔵野大学薬学部の教授として転出され、その間の移転準備等で、約半年程度実験が滞っていた。幸いに、実験を担当されていた行木(旧姓・桑迫)香奈子研究員が、引き続き武藤研の助教として武蔵野大学に移られたので、引き続き実験を担当していただけることになり、実際に本年度4月から実験も開始されている。 HMGA1a蛋白質の生化学的な機能を調べるプロジェクトを担当していた大江賢治准教授が京都大学医学部に移籍後、その実験を担当してもらう予定の芳本玲助教が、一年越しでやっと今年度4月に採用された。今後は、このプロジェクトの研究計画も順調に遂行していけると思う。
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今後の研究の推進方策 |
(1)異常スプライシング誘導因子としてのHMGA1a蛋白質の構造と機能を調べる 分析超遠心機を用いたHMGA1a-標的RNA相互作用の解析ができないことがわかったので、現在は質量分析を用いた方法で解析をしている。この際、使用するRNA断片は、上記PS2のRNA標的配列(GCUGCUACAAG)と、新たなERα(下記参照)のRNA標的配列(GCGGCUACACG)とその変異配列(GCCGAGAUACG)を含む3種類を利用している。予備的な結果であるが、複合体として検出できたのは、PS2 RNAだけだった。現在、塩濃度などの条件をあらかじめITCで解析してから、ERα RNAを含む複合体の質量分析をする予定である。一般的には、結合が強い方がHMGA1a-標的RNA共結晶の可能性が高くなると考えられているので、この際、いろいろと違う塩基変異を入れてみて結合解析を検討することも重要であろう。 (2)HMGA1が異常スプライシングを誘導しているPS2以外の標的遺伝子を探索する 乳癌は不均一性の腫瘍であり、細胞株での解析が、即動物での解析につながらない難しさを感じた。最近、HMGA1aは、悪性度の高いトリプルネガティブ乳癌細胞における主要制御因子と言われており、症例組織での癌幹細胞の抽出解析を可能にすれば、癌化の際のHMGA1aのRNA結合能の役割がはっきりさせることができるかもしれない。顕著な関連性が出てくれば、乳癌における新しいバイオマーカーの可能性もあり、新たな展開が期待できる。ER遺伝子以外の標的遺伝子も、引き続き探索していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年に応募した科研費「新学術領域研究」と民間財団の研究助成3件が不採択になる可能性があったので、計画的に経費節減をした。実際に、これらの研究費は不採択であった。 今年度(平成26年度)の研究費(消耗品)と人件費に当てる予定である。
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