絶滅危惧種でありながら食用として利用されている陸生大型甲殻類ヤシガニと天然記念物でありながらペットとして流通しているオカヤドカリ類の保全に重要な生息域・場所を把握するために以下の4つの研究課題に取り組んだ。 1.全国レベルでの地理的分布の把握:千葉県房総半島に加え、三浦半島で稚ガニの分布と成熟サイズに達したムラサキオカヤドカリの越冬個体を発見した。 2.野外サンプリングによるメガロパと初期稚ガニの上陸・生息場所の把握:前年度までに得たメガロパ・初期稚ガニサンプルの遺伝的種判別を進めた結果、ナキオカヤドカリ稚ガニは汽水域から海浜にかけて、オカヤドカリは汽水域に加入することが判明した。一方、ヤシガニではメガロパと初期稚ガニを発見できなかった。 3.分布を規定する環境要因(温度・塩分)と上陸・生息場所に対する選択性の実験的検討: 本年度までに各種抱卵雌2尾を用い、卵、幼生、稚ガニの温度別飼養、幼生の低塩分耐性、メガロパと初期稚ガニの上陸行動について比較・検討した。その結果、成体のミクロな分布特性と幼生の低塩分耐性、及びマクロな分布特性と稚ガニの低温耐性の関連が明らかとなった。さらには、低塩分が上陸行動を誘起することも判明した。 4.日本固有種と考えられているムラサキオカヤドカリの遺伝的集団構造の把握: これまで研究室で収集した石垣島、沖縄本島、高知県大月町、鹿児島県宝島、東京都八丈島、小笠原父島から得たサンプルのミトコンドリアDNAのCOI領域の塩基配列の集団解析を進めるとともに、系統解析を実施した。その結果、ムラサキオカヤドカリは鮮新世に琉球列島北部でナキオカヤドカリと共通の祖先から分岐したものと推察された。また、ムラサキオカヤドカリの個体群は更新世後期に拡大し、小笠原諸島まで分布を広げ、後者は独自の遺伝的集団構造を持つにいたったものと推察された。
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