研究課題/領域番号 |
24310184
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
帯谷 知可 京都大学, 地域研究統合情報センター, 准教授 (30233612)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 中央アジア地域研究 / 社会主義的近代化 / イスラーム / ジェンダー / 家族 / 国際研究者交流 / ウズベキスタン |
研究実績の概要 |
本研究は、旧ソ連中央アジア、特にウズベキスタンを対象地域とし、ソ連的社会主義的「近代化」過程におけるイスラーム、ジェンダー、家族関係の複合的変容と、そのための装置や内的論理の転換過程の多角的検討を通じて、ソ連体制のもとでの中央アジア「近代化」を今なおアクチュアルな問題群として捉え直す視座を構築することを目的とし、ウズベキスタンの研究者を海外研究協力者とする国際共同研究として展開するものである。4年計画の3年目である平成26年度は以下の活動を行った。 (1)日本側での活動として、研究代表者のほかにいずれもウズベキスタンを主たるフィールドとする科研研究員1名、研究協力者2名から成る研究グループを中心に、①中央アジアに関する民族誌の再検討およびイスラーム・家族・ジェンダー関連問題群抽出のための研究会8回、②本研究の1年目に収集したソ連時代のウズベキスタン映画の名作とされる作品からイスラーム・家族・ジェンダー関連問題群を抽出し、社会主義的「近代」の表象についての検討する研究会6回、③本研究の理論面について検討する研究会1回を開催した。 (2)ウズベキスタン側での活動として、海外研究協力者のイニシアティヴにより、ソ連時代のウズベキスタン・ムスリム宗務局関連資料の精査とそれに関連する人々の記憶についての調査を継続した。 (3)資料収集ならびに海外研究協力者との合同調査・研究打ち合わせのため、研究代表者をウズベキスタンに派遣した。 (4)本研究のとりまとめとして、国際ワークショップを企画することとし、その原案を作成し、より充実したワークショップ開催を目指すため、京都大学地域研究統合情報センターの共同研究公募に応募し、個別ユニットとして採択された。平成27年度中に京都大学において国際ワークショップを開催し、その成果を刊行する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ロシア帝政期・ソ連期の民族誌の再検討、ソ連時代のイスラーム・ジェンダー・家族に関する表象についての検討、ムスリム宗務局関連文書資料の研究と関係者へのインタビュー、写真・映画・ポスター等ビジュアル資料の収集など、研究計画の各パーツがさらに充実してきた。さらに平成26年度は、イスラーム・家族・ジェンダー関連の先行研究をふまえながら、フィールドワークで得られたデータや知見をより大きな学術的議論の枠組みでどうとらえるべきかの検討に着手した。 一例をあげれば、ソ連時代も現代も公には完全に否定されているイスラーム法に基づく婚姻が現代ウズベキスタンの人々の生活においてはソ連時代も現在も効力を持ち続けており、一部では社会問題化していること、あるいは、ソ連時代に根絶されたイスラーム・ヴェールを着用する女性が近年激増しており、それは虐げられた女性というオリエンタリズム的見地からも欧米的価値観に抵抗するナショナリズムという見地からも説明することはできないことなどが明らかになってきた。こうした実態から、あらためてイスラーム・家族・ジェンダーに関連する「近代」や「近代化」の再検討は歴史研究のテーマとしても、現在と未来の社会や国家を考える際に意味のあるトピックとしても重要性を失っておらず、伝統と近代の二項対立を脱却した近代化論が必要であるとの知見に至った。 このような観点から、最終年度のとりまとめに向けて、国際ワークショップの準備に着手し、具体的なトピックを選定している。 したがって、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は平成27年度が4年計画の最終年度となるので、平成27年度中にこれまでの研究成果のとりまとめとして国際ワークショップ「中央アジアの社会主義的近代化と現代」を開催する予定である。今年度はこのワークショップの実現に向けて、全体企画ならびに議論の方向性、ロジを検討するための準備会合を複数回開催するなど、活動を集中していく予定である。ウズベキスタンその他から研究者を2-3名程度招聘し、京都大学において開催する。具体的なトピックとしては、「社会主義建設期における中央アジア女性をめぐる表象と言説」「ウズベキスタン・ムスリム宗務局から見た女性解放」「世俗主義のもとで継承されるイスラーム婚」「現代における女性の隔離と女性たちの生存戦略」などが想定されている。 同時に、本ワークショップにおける報告内容をブラッシュアップして論文集、または学術雑誌の特集として刊行し、本研究において得られた知見と視座を広く世に問う予定である。 さらに、本研究は、旧ソ連地域における社会主義的「近代化」の諸相の比較研究、非社会主義圏における近代化との比較研究、中東イスラーム地域研究におけるイスラーム・家族・ジェンダー関連の議論との接合といった方向に発展しうる可能性を持つものであるので、新規課題として科研費に応募する、あるいは研究代表者の所属先である京都大学地域研究統合情報センターの共同研究公募に応募するなど、より大きな枠組みのプロジェクトに発展させることも視野に入れて、今後の展開の具体的可能性を探っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、研究員の雇用に関わる人件費が本人都合により少ない月があったこと、また、出張先での謝金が当初見込みよりも若干低額であったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越し額は、研究補助謝金としてしかるべく使用する予定である。
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