研究課題/領域番号 |
24320009
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
土屋 昌明 専修大学, 経済学部, 教授 (80249268)
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研究分担者 |
横手 裕 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (10240201)
山下 一夫 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (20383383)
鈴木 健郎 専修大学, 商学部, 准教授 (40439518)
大形 徹 大阪府立大学, 人間社会学部, 教授 (60152063)
二階堂 善弘 関西大学, 文学部, 教授 (70292258)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 洞天福地 / 道教 / 地方神 / 国際研究者交流 / フランス / 中国 / 宗教 / 人文地理学 |
研究実績の概要 |
本研究は、中国の道教で洞天福地とされる山岳の景観およびそこの道観の活動の歴史を軸にして、現地調査と文献調査をあわせおこない、それを総合して研究している。本年度は、すでに十大洞天ほかに対する基礎的な現地調査をすませたので、その調査の整理と文献研究との対照をおこなった。その報告として、鈴木健郎(研究分担者)が「羅浮山の調査報告」を発表した。洞天の通史的な研究として第一大洞天王屋山の研究を進め、山下一夫(研究分担者)が「王屋山の伏虎降竜説話」を発表し、同「王屋山と無生老母」および土屋昌明(研究代表者)「聖地としての王屋山」を執筆した(未印刷)。 本研究の過程で、2点の新たな研究方法をおこなう必要が生じた。一つは、洞天というトポスにおいて、地域神が権威的な道教神と共存したり、あるいは地域神が優勢になったりする現象がある。これを総合的に考える方法において、フランスの研究者との討論と国際学術交流を進めた。2014年3月におこなったフランスの研究者6名との討論をもとに、本年度は、本研究の代表と分担者5名および研究協力者8名が論文を執筆した(フランス側論文5本は日本語に翻訳した)。また、同様な会議を2016年に開催することを予定しており、そのために研究代表者1名がパリでフランス側研究協力者と事前討議と資料調査をおこなった。 もう一つは、洞天思想の東アジアにおける展開についての研究である。朝鮮半島・新羅に対する洞天思想の展開について、土屋昌明が「玄宗による創業神話の反復と道教の新羅への伝播」、洞天思想の平安時代の日本への展開について、同「洞天思想の東アジアへの流伝と平安時代の漢詩文―『本朝文粋』を中心に─」を発表した。 これまでの研究で累積してきた研究成果は『洞天福地研究』として発刊、国内外の関連の研究者と道観に配布している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
十大洞天と若干の小洞天について、所在不明の場所以外は、本年度まで現地調査で基本的な調査を終え、それに対する整理と文献研究に着手し、羅浮山と王屋山の二カ所についてその成果を発表できた。また、これまでの研究成果の一部をインターネットのホームページ上に発表した。本研究に関するフランスの研究者との共同研究についても、研究代表者および分担者の合計5名、フランス側を含めた研究協力者8名が意見交換を吸収して論文を執筆し、編集を済ませた。今後の日仏の共同研究に関するコンセンサスおよびフランスにおける関連研究の調査も順調に進めることができた。また、2013年度までの研究成果の一部を印刷物として発刊し、2014年度の研究成果として、代表者および分担者の論文合計2本と研究協力者の論文3本(うち2本は翻訳)をまとめた(ただし、これらは編集中でまだ刊行できていない)。さらに、洞天の東アジアにおける展開についても、古代朝鮮・新羅および古代日本における洞天思想の受容に関する事例を具体的に研究し、今後のこの方面の研究に方向性をつけることができた。 ただし、第一大洞天その他の文献資料のデータベースについては、原稿は完成したが、ホームページ公開上の技術的な課題を解決できておらず、まだ公開するに至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
大洞天のうち二カ所(西玄山・西城山)について、文献的な欠如によって歴史地理学的に所在が確定されていない。これは、今後の研究によって所在を推定し、現地調査をおこなって、現地調査と文献資料を相互に考慮して、推定を確定させる必要がある。その上で、十大洞天の全体としてのネットワークのあり方と、その歴史社会的な背景を通時的に解明する。その代表的な研究として、第一大洞天王屋山について、その生成から現在に至るまでを歴史的に叙述する。そこには、洞天思想が王屋山を洞天に位置づける以前の戦国秦漢時期の王屋山に対する地方的な山岳信仰、その信仰をベースに道教が洞天思想として王屋山を導入した後漢から魏晋南北朝時期の宗教的メカニズム、唐代の政治的権威が王屋山を国家の祭祀システムに導入したプロセス、宋元時期の新道教の成立と普及における洞天思想の衰退、明清時期から現在に至る王屋山における地方神の興隆と洞天思想との共存、王屋山のこうした通時的変容と他の洞天との比較対照などといった問題が解明されるはずである。 また、これらの問題について、洞天と地方神の関わりという観点から、フランスおよび中国の研究者との共同研究と学術交流が進められるべきである。これについて、すでに2015年9月にフランスで、および2015年12月に香港でおこなわれる国際会議に本研究代表者は成果を発表する予定である。また、2016年にパリでフランスの研究者との共同国際会議を開催する準備を進めている。 洞天思想の東アジアへの展開については、今のところ、新羅への伝播、日本の平安時代での受容が検討されたが、新羅以降の高麗や朝鮮時代の受容状況、日本の記紀万葉への影響、日本の中世から近世における受容、ベトナムへの伝播と受容などの問題を研究しなければならない。特に、日本の修験道への影響を検討することは、洞天思想の日本的な展開として注意すべきである。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果を発表するための印刷物の予算を残したが、諸事情で印刷会社に入稿するのが遅れたため、印刷物の経費の使用が次年度に入ってしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究成果の発表のための印刷物に印刷・製本代金にあてる。
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