本年度は、まず6月にエルサレム・ヘブライ大学で開催されたシンポジウム「中国とチベットの密教」における招待講演で、クムトラ第75窟の壁画と題記の画像復原に基づく分析結果を英語で発表した。この発表においては、本研究費により平成25年度に撮影した高精度写真の処理結果により、従来の題記の判読の一部を修正した上でその内容を分析し、本石窟の題記と壁画の内容を総合的に解釈した。即ち、それらが禅観経典の伝統やアビダルマ的世界観をふまえつつも、直接的には密教的な実践と関係している可能性が高いことを指摘したのである。この成果に関しては、現在新彊亀茲研究院および庫車県文物局と連携して論文を発表する準備を進めている。 8月から9月にかけて、トゥルファン地区で同地区文物局の協力のもと、禅観に関係すると考えられるヤルホト第4窟、センギム第4窟、バイシハル第4窟の調査と撮影を行った。 また10月にはトゥルファン博物館と法鼓仏教学院(台湾)におけるシンポジウムで連続して招待講演を行った。前者 (「吐魯番与絲綢之路経済帯高峰論壇曁第五届吐魯番学国際学術研討会」)では最近発掘されたトヨクK18の壁画の内容を、特に中心柱背面の不明瞭な壁画を中心に、可視光写真と赤外線写真の双方を用いて検討した。この発表は中国語で行った。後者(「2014 仏教禅修伝統3 比較与対話 国際研討会」)では、ギメ美術館に所蔵される保存状態のよくない観経変相(MG. 17669 )を、平成24年度に本研究費により撮影した可視光・赤外線撮影画像(フィルターのみ使用)をデジタル処理により明瞭化したものを使って、その内容をエルミタージュ美術館に所蔵される別の観経変相(Дx. 316 )のそれと比較しつつ考察した。後者は前者と密接に関係しており、恐らくは前者(もしくはそれと非常に類似した作品)に基づいて描かれたものと推測される。こちらの発表は英語で行った。
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