本申請による研究は、ナイル諸語の統語論を、ナイル諸語に属する言語間で比較することにより、明らかにすることを目的としている。特に、統語構造のみで説明がつかない言語現象について、たとえば、言語情報と語順の関係や指示の問題やイベント統合の問題など、統語論と語用論、統語論と意味論のあいだのインターフェイスについて研究した。平成26年度は、稗田乃(研究代表者)は、ナイル語西方言に所属するランゴ語とクマム語を現地で調査研究をおこなった。河内一博(研究協力者)は、ナイル語南方言に所属するクプサビニ語を平成25年度から年度をまたがって現地で調査研究をおこなった。また、ベアント・ハイネとクリスタ・ケーニヒ(稗田乃(研究代表者)により遂行された本申請にさきだつ科学研究費助成事業における研究協力者)は、ドイツの研究補助金を獲得して、ナイル語南方言に属するアギエ語の現地調査をおこなった。稗田乃(研究代表者)は、ランゴ語において、topicalizationとleft-dislocationが統語論的にも区別するものであることを明らかにした。この区別は、通言語的に可能であることを示唆した。本申請の研究は、たんに、言語の現地調査だけを目的としていない。ナイル諸語を研究する全世界の研究者の研究者ハブとしての機能を果たすことをも目的としている。平成26年度は、研究ハブとして研究成果と資料を国際的に公開する役割を果たしているナイル諸語研究シリーズの出版を継続しておこなったほかに、フンボルト大学(ベルリン)の協力で日本でアフリカ諸言語における情報構造についての国際研究集会と同時にナイル諸語研究の国際ワークショップを稗田乃(研究代表者)の組織でもって開催した。現地調査による成果と国際研究集会の成果は、Studies in Nilotic Lingistics vol.9、vol.10として出版し、公開した。
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