研究課題/領域番号 |
24320114
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 大介 東北大学, 災害科学国際研究所, 准教授 (50374872)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 東日本大震災 / 被災史料の保全 / 史料保全技法の開発 / 史料保全における協働 / 市民参加型の史料保全 |
研究概要 |
今年度はNPO法人宮城歴史資料保全ネットワークと協力して実施した東日本大震災で被災した歴史資料の救済・保全活動を通じて、一般市民の参加を前提とした地域の歴史資料保存のための技術的・組織運営面での課題を検出した。また、災害対応も含めた地域歴史資料の保全に対する関心の高まりを受け、自治体などでの依頼により、各地で市民向けワークショップを実施し、そこで得られた知見を歴史資料保全技術にフィードバックする形で、保全技術や活動組織の課題を明らかにすることが出来た。 被災歴史資料への対応としては、津波で被災した宮城県石巻市の個人宅2件の文書資料数千点の応急処置を進めた。一般市民が作業することを前提に、被災の程度に応じた修覆の可否についての判断基準の策定に資する基礎的データの収集を行うことが出来た。また、「次」の発生が懸念される巨大災害への対応を視野に西日本で実施したワークショップを通じて、市民参加型の技術についての知見を深めることが出来た。 歴史資料のデジタル撮影については、山形県で自治体の依頼によるワークショップを実施した。その際、高齢者にもデジタルカメラが普及していること、さらに参加者の多くが史料所蔵者であることを知り得た。古文書の簡便な撮影技法に対する需要があり、ワークショップ自体が地元の新たな史料発掘の機会となることが明らかになった。 一連の研究活動も含めた東日本大震災での被災歴史資料保全活動について各所で報告したが、被災地での活動では、時間の経過に伴う「風化」に対する懸念の声が挙げられた。被災地支援が縮小していく中で、活動の継続性確保と、長期的支援の必要姓に対する社会的合意を確保する論理の確立が課題であることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本の地域社会には膨大な歴史資料が遺されており、それらを行政や専門家など特定の組織「のみ」で保全する事は不可能だと言える。本研究課題においては、東日本大震災での歴史資料保全をNPO法人宮城歴史資料保全ネットワークの協力で着実に進めるなかで、発生が懸念される関東以西での「次」の巨大災害に備えた、市民参加型の歴史資料保全活動の技術的・組織的な課題について明らかにしつつある。 一連の研究成果については、関連学会での報告とともに、被災地内外での講演やワークショップを通じて社会還元すると共に、そこでの経験を活かし、技術・組織両面でより効率的な歴史資料保全の体制作りを考察している。一連の研究活動に対する所蔵者や地域住民からの支援要請も多く、研究活動に対する社会的要請は高い。なお、研究課題の一環として行っている被災歴史資料の保全には仙台地区の市民が参加しているが、研究活動を通じて、所蔵者や所在地の地域住民と、遠隔地の市民が歴史資料保全を通じて新たなネットワークを築きつつある。分野の研究成果を超え、地域間連携を生み出す原動力としても機能している。
|
今後の研究の推進方策 |
東日本大震災で被災した歴史資料への物理的対応が、当面必要な状況もあり、継続して保全活動を進めつつ、効率的な保全活動に必要な技術と組織上の課題を検証する。その一方で、下記の問題について検討する。 1、被災歴史資料の「移動」をめぐる研究 東日本大震災では、被災地の復興に際して災害危険区域などへの指定により、被災した所蔵者が元の居住地に帰還できない状況が起こっている。また、津波被災地を中心に、生活基盤の再建遅れにともなう大きな人口流出が起こっている。以上の点は、被災前まで史料を保存・継承してきた地域への返却が困難になること、および地域外への流出により地域の歴史資料が「消滅」することを意味している。その問題にどのように対処すべきかを、被災自治体の個別事例から検討する。 2、被災歴史資料の「活用」をめぐる研究 上記の点とも関連して、とりあえずの応急処置を終えた分について、様々な活用方法について検討する。歴史研究の資料としてだけではなく、被災者の心の復興や地域の記録となど、現実社会の中で活かす新たな価値観の創出を目指した研究を、関連分野との連携も視野に実施してゆく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題においては、東日本大震災で実際に被災した歴史資料への応急処置の実施が、研究データに必要な情報収集の一環をなしている。膨大な被災歴史資料に対する応急処置を継続的に行っていくことが必須であり、そのための研究活動組織維持にかかる財政的基盤を確実にするため、次年度以降の使用が可能な基金分を経費に充てることとしたため。 被災歴史資料の保全活動に必要な消耗品費、被災資料への対応も兼ねたデータ収集にかかる謝金、被災歴史資料の返却や活動の社会的普及および成果発表のための旅費および関連経費として充当する。
|