研究年度の最終年である本年度は、宮城県栗原市、岩手県一関市の個人宅4件に保管されている古文書資料について、市民ボランティアとの連携により約1万コマのデジタル画像データを収集した。その活動を踏まえ、古文書資料の内容情報保全のための組織について検討し、論文として公表した。 また、成果還元の一環として、宮城県松島町、同女川町で歴史講演会を開催し、3.11被災地での歴史復元を行った。前者では江戸時代の商人・小津久足が、天保11年に江戸・深川から常陸、陸奥の沿岸部を通過して松島に旅行した際の紀行文について、国文学者および茨城、福島の歴史研究者と共同で分析することで、遠隔地・地域外に残された史料を用いて、災害により現地に遺されていた歴史文化遺産を失った地域での歴史復元を行うための方法を検討することができた。女川町での活動については、首都圏の大学からの支援により、災害から救出した古文書を用いた歴史復元を行うことが出来た。 また、宮城県石巻市北上町において、3.11の津波により原本が消滅した古文書資料について、遺されたデジタル画像データを用いた写真版を作成し、郷土史料として活用するための基盤整備を行うことが出来た。 成果の海外発信として、2016年7月の国際心理学会において活動の内容について報告し、歴史文化遺産保全の分野を超えた活用の可能性について確認することが出来た。また、アメリカ合衆国の2つの大学において、災害から歴史文化遺産を保全するための技術的課題や、被災した人々のいわゆる「心の復興」に果たす役割についてk国際比較を行うセッションを実施した。歴史文化遺産の存在形態やアプローチの方法について、地域社会の構造の違いに起因する相違点や、活動の意義における共通理解を得ることが出来た。
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