研究課題/領域番号 |
24320140
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
清水 和裕 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 教授 (70274404)
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研究分担者 |
真下 裕之 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (70303899)
杉山 清彦 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (80379213)
前田 弘毅 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (90374701)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 東洋史 |
研究概要 |
本研究課題の、越境と社会的紐帯の視点からユーラシア諸帝国の軍事集団の特徴を明らかにするという目的に照らして、第2年度(平成24年度)には、①分担者の研究においては、特に「君主と武人の紐帯と忠誠」をトピックとして取り組むこと、②分担者の研究地域を超えたユーラシア諸地域について、その事例を確認すること、が目標となった。このため、年間に4回の研究会を開催し、①については研究分担者各自が、現時点での研究進展状況を報告し、特に「武人の紐帯」の側面から、アッバース帝国における革命時の軍事集団形成のあり方、大清帝国における八旗の忠誠構造とその政権における展開、ムガル帝国マンサブダール制における血縁的また擬制血縁的紐帯の意味などを明らかにした。②については、鈴木宏節(大阪大学)、阿部俊大(九州大学)、伊藤一馬(大阪大学)、三田昌彦(名古屋大学)といった研究者を招待して報告を受け、それぞれ、中央アジアの突厥帝国の遊牧的軍事システム、ヨーロッパ・スペインの軍事政権、中世中華帝国の軍事的再評価、、中世インド大陸における非ムスリム武人政権の構成と展開に関して、研究分担者の担当する諸帝国との比較史的検討を行った。さらに、秋期の共同海外調査において、初年度国際ワークショップの成果を受けて、グルジア・アルメニアの研究者とのネットワークを形成するとともに、文書・写本調査を行った。これらの両国は、初期イスラーム帝国からサファヴィー朝、オスマン帝国にいたるまでつねに境域として、越境する武人のあらわれる故地であるとともに、その地域自体もヨーロッパとアジアの分水嶺であるコーカサス山脈を中心に、多様な地形と多様な文化、生態環境の交錯する土地であることを実地に確認し、そのような多様かつ複雑な地政学的条件が、周辺諸帝国に対して与えた、意義を、主に軍事的側面および帝国に対する人材供給の側面から考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の成果を受けて、①各分担者の研究は順調に進行し、本研究が目標とする三つの論点(1)国家基本構造と密接に関わる軍事集団のキャリア形成や集団形成の原理のあり方、(2)君主-武人関係と主人-奴隷関係の重層制と、家産国家的な支配集団のイエと社会における家族原理の重層制、(3)越境する支配者、越境する武人といった「他者性」が以上の2点にもたらす影響、に関して、それぞれ一定の成果を得ることができた。特に本年度は「武人の紐帯」という上記(2)に関わる側面に関しての研究を深化させるとともに、研究分担者の専門とする地域や時代を越えた、中央アジア、ヨーロッパの事例や中世中華帝国、中世ヒンドゥー勢力の国家形成における軍事力形成のあり方に関する報告を受けて、(1)の問題を比較の視点から検討することができた。さらに海外調査においては、初年度の成果を生かしつつ、ユーラシアにおける代表的な「境域」であるコーカサス地域において、その境域性のうむ越境者の国家形成の意味について考察を深めることができた。現時点では、これらが即時に成果物に反映していないうらみがあるが、研究は順調に進行していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である本年度は、帝国論・国家論的な観点から、これまでの研究を総括し、最終的な成果をもたらす。特に集中的に設定するテーマと研究手順としては、2 年を通じて明らかになった越境する軍事集団と、イスラーム世界、インド世界、中国世界の国家組織論の関係について精査する。具体的には「ディーワーン」(行政官庁)と「ダルガーフ」(宮廷)および六部や科挙官僚などの中国的な官僚制度と、遊牧王権の制度(ジャルグチ、コルチ、タルガ)など組織の型が新たな軍事集団を迎えることでどのように変化したのか、明らかにする。また、帝国支配安定期以降の、中央・地方、およびフロンティア空間における軍事集団の移動と変容について明らかにする。 特に本年は、最終的な報告のために国際ワークショップを開催し、「武人からみた帝国論」に関する国際的な発信を行う。 同時に最終成果を論文集として発行する準備をすすめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は年間に四回の国内研究会を計画しており、当初そのうち一回は国際ワークショップを行う予定であったが、研究の進行にともない、この国際ワークショップを最終年度開催のものに統合して行った方が効果的であるとの合意に達した。このため、第四回研究会は国内研究者のみど開催した。結果として海外研究者招聘の費用が次年度に持ち越された。 上記の事情にのっとって、第2年度予定分と最終年度予定分の国際ワークショップをまとめて集中的、かつ効率のよいものとして開催する。次年度使用額はそのために用いる予定であり、現在人選のほか、具体的な実施計画の詳細を鋭意作成している。
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