16世紀後半よりモンゴル各地で翻訳された『明鏡』は13世紀の著名なチベット語史書『王統明示鏡』のモンゴル語訳である。本研究では、内モンゴル社会科学院所蔵のモンゴル語訳写本が北部モンゴルの翻訳であることを明らかにした。翻訳テキストを『王統明示鏡』のテキストと対照した結果、モンゴル語訳には、翻訳の都合上、チベット文字を書かねばならない部分を全て省略している場合が少数見られるが、それ以外の未翻訳部分の多くは単なる脱誤であり、意図的な改変はこれまでのところ発見していない。訳語について言えば、清代編纂の対訳語彙集に倣っていないものが散見される状態にあることが分かった。
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