研究課題/領域番号 |
24320143
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研究機関 | 敬和学園大学 |
研究代表者 |
松本 ますみ 敬和学園大学, 人文学部, 教授 (30308564)
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研究分担者 |
吉開 将人 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (80272491)
大野 旭 (楊 海英) 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (40278651)
小林 敦子 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (90195769)
権 寧俊 新潟県立大学, 国際地域学部, 准教授 (20413172)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 東洋史 / 国民統合 / 政治史 / ジェンダー / 近代教育 / メディア / オーラルヒストリー / エスニック・アイデンティティ |
研究概要 |
2013年度には全体で2回の研究会を開催した。5月25日には、第1回研究会として北海道大学史学会との共催でミニシンポジウム「中国周縁エスニシティの民族覚醒と教育に関する比較研究」を北海道大学開催した。内容は以下の通りである。 1.松本ますみ「中国イスラーム経堂教育の「凋落」と天津周辺における「保存」:近代主義者、「保守主義者」と日本占領下の華北の対回教政策 2.権寧俊「1910年代の中国東北地方における朝鮮人社会と新興武官学校」3.吉開将人「福音主義と20世紀中国の民族史論」 2回目研究会は早稲田大学で行った。内容は以下の通りである。1.松本ますみ「資料紹介:華北交通編集『北支』・華北交通写真にみる日本占領下華北・蒙疆の「少数民族」表象と「帝国の知」」2.新保 敦子「日本占領下における中国少数民族教育」3.山崎典子(東京大学大学院)「アブドュルレシト・イブラヒムの中国旅行:ロシアのタタル人ウラマーが見た清末ムスリム社会」 松本は発表に基づき、Jonathan Lipman編の著作の中で2014年に出版を行なう予定である。内容としては文字出版により、伝統教育が衰退したことと日中戦争中、ムスリム伝統主義者の日本や「傀儡」権力側との交渉の結果の伝統の維持である。吉開は、文献収集を活発に行い、順調にキリスト教の「衝撃」による民族論の進展と国民統合理論の構築の問題点に関して執筆準備に取り掛かっている。 松本と小林は、9月に内蒙古科技大学で研究発表を行った。それぞれ、日本の中国イスラーム研究の現状と戦前の対回教徒政策の問題点を一次資料に基づき発表したもので、日本の研究水準の高さを本国中国に知らしめることとなった。以上、実績の概要としては、1920年代~30年代という大戦間期と戦争開始期において、教育が普及し、識字者が増えることによって、自民族意識が喚起されたことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
聞き取り調査や、資料収集が順調に進んでいる。 松本は研究協力者、山崎典子に代理で台湾の国史館に茂川秀和の戦犯裁判記録、1930年代の回民のマッカ巡礼記録の資料収集に行ってもらい、茂川(中国回教総聯合会のトップ、茂川機関長)の占領下華北での対ムスリム工作をさぐることができた。また、同じく研究協力者花井みわに、満洲国期の高等女学校出身者の朝鮮族に聞き取りをしてもらい、彼女たちの一部が識字能力によって共産党幹部にまで上り詰めたことを突き止めた。ある階層の人々にとっては、日本の植民地教育であっても識字教育はのちの人生設計と自己実現のためにはある役割を果たしたことが明らかとなった。松本の1930年代の中国イスラーム改革運動と伝統的経堂教育テキスト廃止についての論文は、2014年度中にJonathan Lipman編の書籍の中に納められ出版される予定である。 大野は精力的に資料収集を北京で続け、本科研に関係する著書も出版される予定である。 権は、中国共産党の対朝鮮人認識と三均主義関連資料をかなりの部分収集し、朝鮮人独立運動と民族覚醒活動の概要を把握するようになった。小林は、日本の華北占領期、日本の肝いりで出された『回教週報』を再読することにより、日中戦争期の対イスラーム政策を再検討しつつある。特に、ムスリム青年男子に対する教育は軍事教練方式であり、日本の軍事行動を補佐するものとして育成されたことが明らかになった。その一方で、ムスリム青年女子に対する教育は、いわゆる近代教育であり、世俗化しモダンガール化した女性には好評であったが、保守的な家庭からは歓迎されず、かえって対日感情を悪化させる原因となったことが明らかとなった。吉開は、苗族に関する一次資料を本年度多く購入、閲覧し、苗族知識人が30年代から40年代にアイデンティティに目覚め、なおかつ識字教育の必要性を強く訴えたことを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度なので、グループは次のことを行う。第一に、2014年6月7日~8日に室蘭工業大学を会場に研究会を行なう。第二に、共同研究の総決算として2014年12月下旬に早稲田大学国際会議場で国際シンポジウムを開催する。招聘メンバーは、米国フロストブルグ州立大学のMa Haiyun氏、オックスロード大学のBulug氏。本科研メンバーがパネリストと個別発表を行う。なお、このシンポジウムに関しては、国内外学界に広く広報を行い、多くの研究者の議論の場とする。年度末にはメンバー全員に論文を執筆、研究成果報告書を発行する予定である。報告書に基づき、来年度に著書を出版する。 メンバー各自の計画は以下のとおりである。松本は7月8日にメルボルンで開催されるChristian and Muslim Relationship 1900会議に出席し、キリスト教の衝撃と中国ムスリムの覚醒に関連する発表を行う。松本は8月11日~13日に台湾中央研究院で開催されるInternational Conferenceon Modern China in Global Contetsで、中国ムスリムと中東の関係について文化的・宗教的・経済的関係をめぐる発表を行う。さらに国際シンポジウムに向けて、各メンバーは資料収集と論文執筆を行う。花井は8月に延辺朝鮮族自治州で恩真中学の同窓会長C氏にインタビューを行い、「満洲国」時代の朝鮮人青年の日本との関係をめぐる内的葛藤を聞き取る。大野は内モンゴル東部を訪問し、「満洲国」時代に日本式教育を受けた関係者に聞き取りをする。小林は9月に北京と呼和浩特で蒙疆政権時代に日本式教育をうけた女性に話を聞く。松本は北海道大学図書館所蔵の旧植民地関係資料の中のエスニシティ関連資料を閲覧収集し、分析を行う。以上、フィールド調査、文献調査を踏まえて、国際シンポジウムの準備を万全のものとする。
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