研究概要 |
本研究は,モンゴル高原のオルホン河・トーラ河流域を調査対象域とし,新たに出土・発現した13世紀~17世紀までの仏教遺跡や文字資料が,従来の文献学的歴史研究といかに整合性を持つか,また統合可能かを明らかにしつつ,仏教をキーワードとして浮かび上がる北アジア史の新たな地平を追究すること,すなわち,新出土仏教遺物と文献史料の統合による13~17世紀北アジア史の再構築を目的としており,初年度に当たる今年度は,13・14世紀カラコルムの仏教寺院から出土した遺物を調査・研究する基盤整備のために,基礎研究と現地における予備調査(2012年5月1日~5月7日,8月15日~8月24日,9月8日~13日)とを行った。その成果は,5月26日,10月20日,3月2日にそれぞれ大谷大学で開催された研究集会にて報告され,1)カラコルムの仏教寺院に西夏仏教的要素が見られるという従来の見解は,再検討が必要なこと,2)カラコルムの仏教寺院に建立されていたとされる高さ100メートルの仏塔の様式については,契丹,高麗,ネパール,チベットの同時代仏塔との綿密な比較検討を通して明らかにする必要であること,3)13・14世紀のモンゴル高原全体に流布した仏教について,考古学的出土遺物が少なからず発現しており,それらを含めた総合的な研究が必要であること,以上の成果を得た。その意義・重要性は,従来,ほとんど研究されてこなかった13・14世紀モンゴル時代モンゴル高原における仏教伝播の状況について,考古学的証拠から再構築するための方向性を得た点にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初,本年度にエルデニゾー僧院において小規模な発掘調査を行い,13・14世紀カラコルム都市遺蹟との関連性及びカラコルム築城以前の8~12世紀の古い文化層との関連性について追究する予定であったが,発掘許可を取ることができず,次年度持ち越しとなった。しかし,本年度の主たる研究実施計画である「仏教的出土遺物の調査・研究による基盤整備」については予定どおりの研究成果を挙げているため,当初計画はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
エルデニゾー僧院において小規模な発掘調査を行い,当該地域における13~17世紀モンゴル仏教の各文化層を抽出し,関連地域との差異を検証する。考古学,歴史学,仏教学,寺院建築学,保存科学の各方面からアプローチを行う。またそれと並行して,文献史料を博捜し,考古資料と文献資料との校合作業を開始する。
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