研究課題
地域の不均衡発展は旧くて新しい課題である。わが国では戦後長らく「国土の均衡ある発展」が政策理念に掲げられてきた。しかし、人口減少社会の到来とともに大都市集中抑制の方針は後退し、財政条件の悪化にともない「地域の自立」や「地域間競争」が強調されるようになった。さらに、グローバル化の中で都市の競争力を高めるためには、東京一極集中を是認する主張も台頭している。これら地域格差をめぐる従来の議論は、もっぱら企業立地や政府支出の地域間不均衡を問題とし、家計部門の扱いは不十分であった。一方、近年隆盛を見た格差社会論は、世帯所得のジニ係数拡大などを根拠に、家計部門における所得分配の不平等に注目してきたが、地域格差問題への視点は希薄である。本研究の目的は、(1)これまで未解明であった世帯所得の地域的分布と時間的変化を統計データによって推定し、(2)その背景となる人口学的要因や経済的要因を探るとともに、(3)地域の人口動態や健康水準などに及ぼす影響を多面的に分析することにある。まず、年齢別人口構成や世帯規模をコントロールした上で実質的な世帯所得を推計した。1998年以降、都道府県別に見た世帯所得の地域間格差はほとんど拡大していないが、市区町村別に見ると東京都心部に高所得層が集中する傾向が見られる。また、市区町村より小地域の所得分布を推定する手法として、空間的マイクロシミュレーションと階層ベイズモデルの融合による方法論的発展について検討した。さらに、格差問題における根源的な問いとして、正当化しうる格差と是正されるべき格差をどう考えるかは難問である。高い能力や技術を持つ人的資本の集中が都市の経済成長をもたらすという「創造階級論」を批判的に検討しつつ、都心回帰現象や所得格差拡大を評価する必要があることを論じた。
2: おおむね順調に進展している
世帯所得の地域格差の推定の方法は本研究において既に確立済みであるが、さらに詳細な年齢階級別データを用いて世帯主のコーホート別に分析をおこなっているところである。所得格差の要因については、説明変数となる社会経済データの絞り込みと、適切な多変量解析の手法について試行中である。所得格差と人口動態や健康水準との関係には、個人の資質や能力など人的資本の要素が影響することから、学歴別に見た人口移動や職業別に見た居住地選択などに注目した分析を進めている。
これまでに得られた成果をもとに、直近の統計調査の結果公表を待ってデータを追加するとともに、過去のデータについて遡及延長をおこない、分析の拡張と改良を続けていく。所得格差を生む地域的要因とそれがもたらす影響について、因果関係を含め理論的な検討をおこなう。
独立行政法人・統計センターに対し、国勢調査や住宅・土地統計調査のオーダーメード集計を依頼し、分析することを計画していたが、データの属性定義や調査範囲に検討を要する点が多いことが判明し、作成委託する統計表の仕様について精査をおこなっているところである。そのため、平成25年度に予定していた予算の執行が遅れている。独立行政法人・統計センターとの協議が完了次第、統計表の作成委託をおこなう予定である。
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