研究課題/領域番号 |
24320175
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
名和 克郎 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (30323637)
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研究分担者 |
藤倉 達郎 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 教授 (80419449)
MAHARJAN K.・L. 広島大学, 国際協力研究科, 教授 (60229599)
宮本 万里 国立民族学博物館, 文化資源研究センター, 外来研究員 (60570984)
南 真木人 国立民族学博物館, 文化資源研究センター, 准教授 (40239314)
森本 泉 明治学院大学, 国際学部, 教授 (20339576)
安野 早己 山口県立大学, 国際文化学部, 教授 (40144307)
佐藤 斉華 帝京大学, 文学部, 准教授 (10349300)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 文化人類学 / ネパール / 包摂 / 民族誌 / 社会動態 / 国際情報交換 |
研究概要 |
本年度は、第一に、昨年度に引き続き、ネパール及び関連する国、地域での調査を継続した。具体的には、研究分担者のうち佐藤は8-9月及び3月にカトマンドゥ(女性労働者)、藤倉は2月にバンケ、バルディア両郡(暴力と包摂)、マハラジャンは9月にカトマンドゥ盆地(政治と政党)、宮本は7月にブータン、ティンプー等(第2回国政選挙)、南は2-3月にカトマンドゥ等(労働移民、特に仲介業者)、森本は8-9月にカトマンドゥおよびゴルカ(ガンダルバの活動)、安野は8-9月にポカラおよびカトマンドゥ(高位カーストによる組織的権利要求運動)でそれぞれ調査を行った。連携研究者の上杉は6月にイギリス、ロンドン(在英ネパール人コミュニティ)、田中はカトマンドゥおよびマクワンプール郡(人身売買サバイバー)で、研究協力者のうちゴータムはカトマンドゥ盆地(包摂と政治)、中川は7-8月にカトマンドゥ盆地(食肉市場)、森田は3月にカトマンドゥ、ポカラ、アンナプルナ保護地域(タカリーのネットワーク)およびマレーシア、クアラルンプール(ネパール人移民)で調査を行った(調査地は明記されていない限りネパール国内、また括弧内は主要な調査主題)。いずれも、「包摂」を巡る社会動態に関する、インタビュー及び参与観察を基軸とした質的調査が、その中心となっている。研究代表者の名和は、8月にマンチェスターで開催された国際学会でこれまでの成果の一端を発表すると共に、来年度の英語での成果発表に関する調整を行った。また、研究協力者の中川も本科学研究費でのネパール滞在中に本研究の成果の一部を学会で発表した。 また、ネパールの政治社会情勢と包摂を巡る最新の英語、ネパール語の書籍及び定期刊行物を分析し、大状況に関する情報の共有に努めると共に、トリブバン大学ネパール・アジア研究センターのパンチャ・マハラジャン、ムリゲンドラ・カルキ両博士との情報交換も積極的に行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究分担者、連携研究者、研究協力者とも、現地調査を基軸とした研究を、昨年度に引き続き順調に進展させている。論文として刊行された成果はまだ多くないが、調査結果の共有は本科研と連動して開催している国立民族学博物館の共同研究会において順次なされており、さらに、多くの参加者が、様々な学会、研究会等において、日本語及び英語で本研究に関わる口頭発表を行っている。これらの内容から、各参加者が十分な質を伴った調査を行い、それらに基づきネパールにおける「包摂」を巡る社会動態の諸側面を明らかにする研究をまとめつつあることは明白である。さらに、安野が村落を巡るカースト間関係の問題から、ヒンドゥー高カーストによる組織的な権利要求運動の調査へと研究を発展させ、またマハラジャンが特定の民族系政党に関する詳細な調査を行うなど、具体的な研究の多くは、当初設定された計画を越えて進展している。 しかし、本研究の全てが順調に進展しているとは言えない。残念だったのは、2013年11月に行われたネパールの第2回制憲議会選挙を、ネパールで直接観察することが出来なかったことである。しかし、各参加者はそれぞれネパール語及び英語で、同選挙およびそれを巡る政治過程に関する情報収集を行ってきており、また今年度および来年度の調査により、この選挙の過程およびその影響に関して、それぞれの調査地での実状が明らかにされる見込みである。従って、この点が研究目的達成の大きな障害になっている訳ではない。 本研究は、連邦民主共和制に向けた体制転換期にあるネパールにおいて、多種多様な中間集団の存在を前提として展開される種々の政治的な主張と、そうした中間集団に属するとされる様々な人々の行う実践とが織りなす布置を明らかにしようとするものであるが、以上のことから、本年度の研究はこの目的に照らして概ね順調に進展しているものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には当初の計画通り研究を続ける。本研究の前提となるネパールの政治情勢は2013年11月の制憲議会選挙により大きく変化したものの、新憲法制定に至る体制転換期という基本的枠組は継続している。来年度の調査では、特にこの点に関して、それぞれの調査地において情報の蒐集に努める。また、文献資料等の収集も継続する。 研究成果は、同じく名和が代表をつとめる国立民族学博物館の共同研究「ネパールにおける「包摂」をめぐる言説と社会動態に関する比較民族誌的研究」で順次発表していく計画である。また最終的な成果のとりまとめについても、同共同研究と連携する形で、本年度中に日本語による論文の第一稿を各参加者が執筆し、検討を進めていくことを計画している。 また、当初計画では、来年度末にネパールからも研究者を招聘して国際シンポジウムを開催することを計画していたが、上記のように多くの参加者の研究が予想以上に進展していることから、2014年5月に千葉市で開催される人類学の大規模な国際学会International Union for Anthropological and Ethnological Sciencesの2014年Inter-congressに、研究分担者の藤倉達郎教授と共に2つのパネル、Comparative ethnography of 'inclusion' in Nepal: discourses, activities, and life-worlds、及びPolitics, culture, and cultural politics in the Himalayasを主催し、ネパールからも複数研究者を招聘して議論を深めつつ、より広い聴衆に向けてこれまでの研究成果の一部を問うこととした。なお、これらのパネル及び個々の発表は、既に学会の査読を通過している。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、基本的には、本年度ネパールでの調査を予定していた研究協力者のうち1名が、諸事情により年度内に調査が行えなかったために生じたものである。 研究協力者1名のネパールにおける「包摂」を巡る社会動態の調査に充てることにより、本研究の目的に即した形で使用する計画である。
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