研究課題
理論面では、自発的に解消可能な繰り返し囚人のジレンマを行う社会における安定的行動様式の研究を進め、グレーヴァ・奥野(SSRN working paper, 2016)などに結実した。本論文では、誰とでもまず協力し、裏切られるまで関係を続ける行動様式と、それをカモにしようと裏切ってすぐに逃げ出す行動様式がある割合で共存する状態(二戦略均衡)が社会的に安定であることを示すために、流動的で匿名的なプレイヤーからなる社会での新しい安定性概念を提案した。今一つのグレーヴァ・奥野の未公刊論文では、社会メンバーが獲得する期待利得が上記の二戦略均衡と同一の、安定的な状態が多数存在することを示した。中でも注目すべき状態は、上記の二つを含む六つの行動様式が共存する状態(六戦略均衡)である。六戦略の中に、最初は相手が裏切っても、それを許して次の回からまた長期協力を求め続けるという、寛大な行動様式を含むことが注目される。二戦略均衡や六戦略均衡のもう一つの注目点は、多様な行動様式が共存することが信頼を生み出し、社会の安定性を作り出しているからである。実験面では計6回の実験を行い、その解析を進め論文執筆作業を始めた。実験研究の結果は次のとおり。第一に、得られたデータは理論研究で得られた六戦略均衡を支持していると思われる。六戦略均衡という結果自体、実験研究で顕著に表れた寛大な行動様式を理論的に説明しようとする努力の結果であり、本研究における理論・実験の共同作業が有効であったことの証左である。第二に実験データを精査すると、上記の寛大な行動様式の割合が、理論研究が示す値より有意に大きい。これは、ペアを継続しようという合図が、お互いに協力を選ぼうというシグナルとして機能しているのではないかと考えられるため、当初の実験計画を若干修正し、シグナル仮説を検証するような追加実験を行った。
28年度が最終年度であるため、記入しない。
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