研究課題/領域番号 |
24330074
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
神林 龍 一橋大学, 経済研究所, 准教授 (40326004)
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研究分担者 |
照山 博司 京都大学, 経済研究所, 教授 (30227532)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 賃金格差 / 自営業 / 非正規雇用 |
研究実績の概要 |
まず、賃金センサスを用いて賃金格差の動向を総括し、推論通り男性グループ内格差の拡大が事業所間格差の拡大に起因することを共分散分解を用いて明らかにした。この論考は現在投稿準備中である。この要因を探るために、第一に外国直接投資との関連を分析し、この点での影響は僅少であると推論した。この論考は6月の日本経済学会、11月のベルギーでの学会で報告され、Review of World Economics誌に掲載予定である。第二に、労使コミュニケーション調査と賃金構造基本調査をマッチし、労使コミュニケーションに関する労使間での意識の違いが労働生産性に負の影響を及ぼすことを検証し、労使コミュニケーションの違いが事業所間賃金格差の違いを説明する可能性を指摘した。この論考の内容は6月にオーフス大学で報告され、現在投稿準備中である。第三に、賃金構造基本統計調査と雇用動向調査とを接合し、企業内の昇進競争の影響が年功賃金や賃金格差に与えた影響を観察し、これも事業所間賃金格差に影響を及ぼしたことを検討した。この論考はすでに『日本労働研究雑誌』に掲載されている。 以上のように、神林を中心に、事業所間賃金格差の動向はその要因が明らかにされつつあり、研究の焦点は労働市場全体の格差の動向に移りつつある。まず、照山が中心になり「就業構造基本調査」を整理した。また、「労働力調査」に基づき、1980年代から最近までの自営業と非正規雇用間移動を中心としたフローデータ推定を行った。この背後に自営業の存在と、主に女性のライフサイクルの存在が重要なことがわかり、前者についてはいわゆるジョブクオリティという側面からの論考を準備し、自営業と非正規雇用の関係の重要性を考察した別の論考は日本経済学会などで報告し現在投稿中である。後者については保育園政策や労働政策との関連から論考を準備し、各々各種学会等で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
事業所間格差の動向について、外国直接投資、労使コミュニケーション、昇進メカニズムという3点から考察を加え、一定の研究成果を得た。平成27年度夏には外国からの研究者を招いた国際コンファレンスを予定するまでに至り、一応の結論が得られることが期待される。 したがって研究の軸足は、企業内のシステムの考察から労働市場を介したシステムの分析に進み、自営業と非正規雇用との関連を調べる段階に到達している。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は企業内システムの事業所間賃金格差に与える影響について夏季にコンファレンスを開き一応の結論を得る一方、「就業構造基本調査」や「労働力調査」を中心に自営業と非正規雇用の分析に軸足を向ける。ただし、すでに自営業と非正規雇用の間の転換については、(a)日本における自営業のおかれた特殊な位置、(b)労働市場のマッチング機能、(c)自営業と非正規雇用の間に横たわる制度の格差、(d)世代を経た長期的な職業選択メカニズムという新たな論点が見いだされている。平成27年度は(a)に力点をおき、旧来のクロスセクショナルデータや労働力フローのデータから具体的に考察を進めるほか、(b)から(d)の論点についての新たなデータセットの探索などにも注力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に計上していた平成26年9月のマンチェスターでの研究報告ならびに11月のブリュッセルでの研究報告に係る経費が、先方の負担となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年7月に米国および欧州より人事経済学の専門家を招き、とくに労使コミュニケーションと賃金格差との関係、昇進構造と賃金格差との関係についてのコンファレンスを開催する。
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