本研究の目的は、中国の研究機関と連携して実施した中国農村における世帯・村落調査にもとづき、2000年以降に農村で展開された様々な公共政策が農村の所得格差にどの程度の影響を与えたのか、また地方政府の利害関心や行政能力によって公共政策の実施過程にどのような違いが生まれたのかを分析することである。本研究は、新興国が、公共政策を通じて如何にして持続的経済成長と地域格差縮小、政治的安定を実現するかという経済発展論における基本的な問題に示唆を与える実証研究としての意義を有している。 平成26年度には、研究のために構築したデータと研究で得られた知見の両面についてまとめとなる論文を執筆した。前者については、本研究が依拠したデータを中心として中国研究におけるミクロデータ活用の現状を論じた論文をChina Economic Review誌に発表した。後者については、(1)農村出身労働力の大都市集中を避けようとする中国の労働力管理政策の問題点を論じた論文、(2)農村における公共投資プロジェクトの地理的分布の決定要因を、地方政府の利害関心と農村住民のニーズの両側面から分析した論文、(3)公共政策を通じた所得再分配が農村世帯所得の不平等度に与える影響を分析し、農業生産補助金と公的医療保険の所得再分配効果が大きいことを確認すると共に、農業生産補助金が新たな地域間所得格差の要因ともなっていることを論じた論文、(4)内陸地域の農村と都市における貧困率と貧困の決定要因を分析し、併せて最低生活保障などの公共政策の役割を論じた論文を執筆した。このうち(1)はChina Economist誌に発表し、他の論文については、中国社会科学院民族学・人類学研究所で開催された国際ワークショップ(平成26年10月)において口頭発表を行った。
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