本研究の目的は人口移動を考慮しながら、都市政策・交通政策の評価が可能な費用便益分析体系を構築することである。平成28年は、研究の最終年度にあたるため、これまでの成果をとりまとめて国際的学術誌であるJournal of Urban Economics誌、Journal of Choice Modelling誌で公表した。 Journal of Urban Economics誌で公表した成果は、空港政策の評価につながりうる理論モデルの開発である。これまでの交通投資の費用便益分析では、交通企業が兼業を行っていることは考えられてこなかった。世界の主要空港では、兼業からの利益が本業からの利益(離着陸料から得られる利益)を上回っており、空港の費用便益を正確に行うには、兼業部門の正確なモデル化が必須である。本研究では、兼業部門を含んだ空港の一般均衡モデルの開発に成功し、そのモデルに基づいて、最適な混雑税、空港の収支、空港への規制政策等、包括的な分析を行った。この成果は、将来のより現実的な費用便益分析でモデルの開発に結び付くと予想される。 Journal of Choice Modelling誌で公表した成果は、ロジットモデル等の離散選択モデルの、標準的な効用最大化モデルにおける意味づけを明らかにしている。交通の需要予測モデルでは離散選択モデルが用いられることが多いが、それが経済学上どのような意味を持つのかは必ずしも明らかではなく、慣例的に用いられる便益評価手法の経済学上の意味づけもあいまいであった。本研究では、ロジットモデル、GEVモデル、ミクストGEVモデルといった離散選択モデルを標準的な効用最大化問題の特殊ケースとして導出し、そのモデルに基づき、厳密な便益評価手法を展開している。この成果は、今後の研究で、より直接的に交通投資の便益評価に応用が期待できる。
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