研究概要 |
研究の目的は,急速に進む高齢化に注目し,高齢者の経済的な選択・行動と健康や認知能力がどのように相互に関連しているのかを明らかにすることである.さらにその結果から,法律や税制,社会保障(年金,医療,介護)における政策提言へと展開することを目的とする.具体的には,主に次の4つの問題にかんして分析を進めていく。(1)高齢者の早期引退は認知能力を低下させるか.(2)高齢者の早期引退はどのような健康指標に影響を与えるか.(3)高齢者の早期引退と認知能力の相関は,教育投資行動から説明できるか.(4)職種や職歴が認知能力や健康に与える影響の分析. 2012年度は,高齢者の引退行動と認知能力にかんして分析を実施した.特に,一番長く勤めた仕事に求められる肉体的負担,数学的能力,論理性,言語能力が引退後の認知能力にどのような影響を与えているのかについて分析した.推定では引退期間と認知能力テストスコアの内生性を考慮し,引退期間の切断されたデータについてもトービット推定を用いて対応した.認知能力の物差しとして記憶テストスコアを使う場合,暫定的な結論として内生性を考慮した上で引退期間は認知能力に影響を与えないこと,一番長く勤めた仕事の中身(例えば、どの程度論理能力を必要とするか)によって引退後の認知能力低下が違うことを示した. 2012年11月5日・6日にイタリアのUniversity of Bocconiで開催されたWorkshop on Family Economicsで「Occupation,Retirement and Cognitive Functioning」という論文を報告し,数多くの有益なコメントを頂いた.さらに,これらの研究成果を2013年度の国内外のコンファレンスで報告することが認められている.よって,本研究の進捗状況は良好といえる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度遂行した研究について、改訂作業を行い、査読付き雑誌への掲載を目指す。それと並行して、2つのあらたな分析を実施する予定である.第一に,高齢者の引退行動と認知能力の関係についてDuration Analysisを行う。 さらに,引退後の時間の使い方と認知能力にどのような関係があるのかを分析する.これらの分析は国際的にみても研究の蓄積があまりなく,国内でははじめての分析である.いずれも、国内外の学会等で発表することが予定されている。
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