第1に、人的経営資源への投資戦略に関する多国間比較を行った。まず、日豪の二国間比較研究によって、人的側面が極めて重要な農業国際競争力の要因であることを明らかにした。こうした成果は、英文の学術論文として公表したとともに、調査報告書としてアンケート調査実施地にも還元した。また、カリフォルニア稲作農場における農業経営能力開発に関する実態調査を通して、人的経営資源への投資戦略の重要性を確認した。豪州での成果と併せた多国間比較によって、農業国際競争力の要因に新たな視点の提示と若干の実証を加えた。 第2に、日本における大規模なアンケート調査の実施により、農業経営能力開発の現況を把握した。特に、国際競争力が求められる稲作法人経営について分析したところ、経営者能力水準の不十分さ、経営管理基盤に対する投資の薄さ、職能的企業化水準の低さが明らかとなり、人的経営資源への投資戦略が喫緊の課題として指摘された。こうした研究成果は、国際学会で発表したとともに、調査報告書としてアンケート調査実施地にも還元した。 第3に、人的経営資源への投資戦略と農業人材市場との関係について理論的検討を加えた。まず、生産性や価格など従来的な国際競争力要因に加え、人的側面を新たな国際競争力要因と捉え、その強化方策として人的経営資源に対する投資に大幅な改善の余地を見いだした。次に、農業経営能力開発の基本原理は、知識と経験の双方の重ね合わせのプロセスであることが理論化された。その上で、農業人材市場のサブシステムとして、経営能力開発の基本原理を埋め込んだ農業経営者教育、特にリカレント教育を実践することが重要であり、そこに戦略投資を重点化することが社会的にも効果的であることが示された。以上をもって、本研究課題のとりまとめとする。
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