研究概要 |
本研究では,3カ年で3つのテーマに取り組んでいる。第1のテーマは配当行動である。ガバナンス要因と現金配当との直接的な関係については,これまでに数多くの研究が行われているが,本研究では,支配株主や日本固有の株式所有構造を抽出し,投資機会の大きさや資金的余裕度をコントロールした上で,その影響を分析する。第2のテーマは投資行動である。第1テーマと同様に,ガバナンス要因と設備投資,研究開発投資との直接的な関係については既に研究が行われているが,それらの投資の質を考慮した分析,セグメント別分析,個々の投資ではなく宣伝広告費なども含めた経営者が裁量的に左右できる投資全体を対象とした分析など,これまでに行われていない分析を積極的に進める。第3のテーマは多角化である。多角化行動だけでなく,内部資本市場の効率性に対して,ガバナンス要因が直接的・間接的にどのような影響を与えているかを分析する。 平成24年度においては,第1テーマである配当行動に関して,エージェンシーコストの視点から,ガバナンスと自己株式取得との関係を中心に研究を行った。エージェンシー・コストを3つの次元から識別し,1997年度から2006年度に行われた自己株式取得の公表をサンプルとして,経営者と株主間の利害対立および情報の非対称性が自己株式取得による利益還元に影響を与えているか,経営者が裁量的に使用できる資金の大きさが自己株式取得の公表に影響を与えているか,また代替的な資金配分方法の使用が自己株式取得の公表に影響を与えているかという点について,実証分析により明らかにした。これはワーキングペーパーとしてとりまとめ,現在投稿中である。第2テーマである投資行動,第3テーマである多角化については,既存の研究をサーベイし,その問題点を把握したうえで,仮説を構築している。 すなわち,リサーチデザインの段階にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1テーマについては,ワーキングペーパーを完成させることができ,無事投稿することができた。これは投稿できる段階にまで完成度を高めるという目標を上回る達成度である。これに対し,第2,第3テーマについては,リサーチデザインのプロセスにあるが,データベースの構築まで進める予定がやや遅れている。全体としては,おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで通り,研究協力者と緊密な連携をとりながら,リサーチデザインの妥当性,分析結果の妥当性,実務へのインプリケーションなどを逐次的に検討し,論文の完成度を高め,投稿を目指す。当面,研究計画の変更はない。
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