本研究の目的は、育児等を理由にした短時間正社員制度の利用期間が長期化することによる利用者のスキル開発やキャリア形成への影響を明らかにし、それに伴う人事処遇のあり方を検討することにある。 平成26年度までの3年間で、国内企業及び海外(イギリス、ドイツ)企業のヒアリング調査、国内企業に勤務する管理職(短時間正社員の部下を持つ管理職)に対するアンケート調査を実施するなど、現状把握のためのデータ収集を行ってきた。最終年度の平成27年度は、これまでのデータ等の分析を進め、学会発表や論文執筆を行った。引き続き平成28年度以降も、出版原稿の執筆等を予定している。 本研究開始後、特に子どもをもつ女性のキャリア形成のあり方は、政府が推進する女性活躍推進政策とどのように整合させるかが重要な課題となった。平成27年度には、いわゆる「資生堂ショック」(資生堂が実施した、育児短時間勤務制度利用の女性に対するキャリア形成のための業務配分のあり方の見直し施策)など、社会的にも関心が高まったテーマである。企業の人事管理においては、仕事と育児の両立支援策の制度化や運用のあり方について、女性の能力発揮という本来の趣旨に照らして何が適切か、という観点からの見直しが進められるようになった。 本研究では、育児期に短時間勤務制度を利用して働く(主として)女性が、長期的に制度を利用し続けることによりキャリア形成に悪影響が生じる可能性があることを明らかにした。また、それを回避するためには、本制度以外の制度も充実させて本制度への依存を軽減し、制度利用者に対して適切な仕事配分を行うことにより仕事経験のロスを小さくすることが重要であることなどを明らかにした。研究成果は、研究代表者が参加している審議会の育児・介護休業法改正の議論において紹介し、育児期の短時間勤務制度の利用期間の延長化を行うことについての慎重な対応につながった。
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