研究概要 |
本研究プロジェクトは,持続可能な社会構築に資するために,社会的費用の小さい交通体系の構築を念頭に,交通企業の規制のあり方,交通事業のビジネスモデル等に関する提言につながる政策研究を目的にしている。初年度にあたる24年度の具体的成果は下記の通りである。 まず海外ジャーナルに採択された研究として次の3本がある。第一に,鉄道事業における上下分離政策が本当に理にかなったものかについて,欧州と日本などのデータをもとに推定した費用関数を用いてその妥当性を検証した。その結果,輸送密度が低い事業者の場合には上下分離の方が費用優位にあるが,大きい事業者の場合には,組織間の取引費用が大きくなりすぎるため,逆に費用の増大をもたらすという結果を得,社会にとって維持可能な鉄道政策の構築にとって有益な政策情報を導出した。次に交通行動に関して,旅客が国際ハブ空港にいたるアクセス選択行動を,SPデータを用いた2項ロジットモデルにより分析し,選択はアクセス交通のサービス,時間・移動コスト,待ち時間,及び遅延時間の影響を受けること,もし旅行客が事前に輸送モードを決めていたら人は運航頻度に注意を払うこと,さらに旅客の時間節約意思は時間帯によって異なることを明らかにした。最後に,新規交通システム開業時の需要予測事例を検証し,計画時の予測需要と実績需要の違いから,どのような見込み違いが何パーセントの誤差を生んだかを明らかにすることで,とくに課題枠組設定の重要性を明らかにした。これら以外にも,規制政策の変更が経済厚生に与えた影響の分析等に関する研究,新たな交通関連システムの最新動向に関する情報収集,持続可能な交通政策のパラダイム転換で先行しているといわれる欧州に関するサーベイも推し進め,それぞれ一定の成果を得,その一部を論文として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年計画の研究プロジェクトの初年度として,研究実績に既に記述したように,当初意図していた分野に関する研究が,おおむね順調に進んだ結果,6本の論文を公表することができていることが,その大きな理由である。このうち5本は雑誌論文(うち査読付きは4本),1本は海外で出版された本に所収されものである。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に当初計画通りに進展する予定であるが,1点だけ変化がある。それは研究の進展だけではなく,9月に英国オックスフォードで開催される国際会議のプログラム委員会メンバーでありわれわれの研究協力者でもあるvan de Velde氏(オランダ),C.Nash教授,J.Preston教授(ともに英国)からの要請といった研究環境の変化を受けて,わが国地域バスの費用関数の推定と規制の分析が必要となり,同分野を専門とし,以前からわれわれと共同して研究を行っていた酒井を,研究分担者として新たに追加して,これに取り組むこととした。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は,正司が副学長の任にあることに加えて,水谷が研究科長(兼学部長)となったこと,招聘予定であったvan de Velde氏の来日が都合により中止になったことで残額が生じたが,今年度に関しては,上記国際会議の重要性が当初計画以上のものとなったことにあわせてこれを計画的に使用していく予定である。
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