研究実績の概要 |
今年度は、昨年度に予定していた米国研究者の招へいとシンポジウムを開催し、さらに夏には米国における新聞社、放送局の、デジタルメディアとの融合状況についてインタビュー調査をし、東アジア地域の産業データ、および実務家へのインタビュー・データと突き合わせて、世界的なデジタルメディアの現在を把握、将来を展望する作業を行い、とりまとめ作業に入った。これは、研究代表者林と分担者リンとが行った。 米国は、ネット普及によるメディア産業の構造変革がもっとも進んでいる国の一つである。また、メディア産業に行政や自治体の関与が少ないので、市場原理のインパクトが強い。そうした中で、さまざまなメディアが起業され、実験的なベンチャー企業が台頭している。また、伝統メディア内部にもそうしたベンチャー的発想をもつ部門が次々と作られ、産業全体が構造転換の只中にある。そこでは、広告収入のみならず、NPO方式、クラウドソーシングなどの新たなマネタイズによる収入源の多様化が試みられている。他方で、そうしたベンチャー・ビジネスに出遅れた伝統メディア、とりわけ地方紙は、経営が苦しく、経営者が何度も変わるなど苦戦を強いられ、記者たちが生活の不安を訴えていた。それは報道内容にも直接反映される傾向にあり、収入を十分確保できない企業のジャーナリズムは明らかに衰退している。以上が米国訪問、シンポジウムの開催による主な知見である。 他方で、米国のこうした状況をふまえしつつ、日本での状況を再確認することが重要である。産業構造分析を担当してきた田中秀幸と、音楽・映画・書籍の販売方法が多様化していることに着目し昨年度末に発表した「クラウド化・定額化がもたらすデジタルコンテンツとビジネス・エコシステム」(『社情報学会誌』,vol.3, no.2, pp.47-59)論文に基づき、日本の状況を概観、議論した。
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