研究課題/領域番号 |
24330161
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
関 礼子 立教大学, 社会学部, 教授 (80301018)
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研究分担者 |
阿部 治 立教大学, 社会学部, 教授 (60184206)
江上 渉 立教大学, 社会学部, 教授 (50213533)
高木 恒一 立教大学, 社会学部, 教授 (90295931)
林 雄亮 尚絅学院大学, 総合人間科学部, 講師 (30533781)
宮内 泰介 北海道大学, 文学研究科, 教授 (50222328)
黒田 暁 長崎大学, 大学院水産・環境科学総合研究科, 准教授 (60570372)
後藤 厳寛 佐賀大学, 産学・地域連携機構, 特任准教授 (70393113)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 原発事故避難 / ライフの復権 / コミュニティ / 減災 |
研究概要 |
福島原発事故後の避難者動向について、避難指示区域自治体の避難者の状況ならびに、いわゆる自主避難者(広域避難、母子避難)の状況について、フィールド調査、ヒアリング調査を主体に研究をすすめた。1.エリアごとの補償の有無や補償内容の差異は、同じ地域に避難してきている人々が抱える困難を共有し続けることを困難にしている、2.訴訟など事故の加害性を問う動きがある一方で、被害に抗いつつも事故の社会的費用を結果的に受容していく動向がみられる、という点が明らかになった。 また、ハードの復興を中心とした復興計画・事業が持つ時間軸と個々の被災者・避難者の時間軸とのズレが、事業・計画の合意形成を困難にし、あるいは無効にしてしまうという点や、復興計画・事業への被災者・避難者の主体的参加が期待される一方で、実際は、それらプロセスにおいて、主体性を摩耗させたり、計画・事業への不信や無関心を招いているという点が問題点として浮かび上がってきた。 これらに関し、自らの生活と将来を自らの手に取り戻すための「ライフの復権」という観点から考察するとともに、避難者に経験された「日常」の浮遊感や「旅」という行き先の不透明感、また避難をめぐる「疎外感」や「揺れ」について分析をすすめた。 さらに、民族宗教や民俗芸能をめぐる状況、復興計画・事業における住民の合意形成と事業プロセスのズレ、また避難者受け入れ自治体の状況を中心に調査研究をすすめた。ここでは、震災直後から時を経るに従って従来のコミュニティの減災機能に変化がみられ、従来のコミュニティが持っていた機能は部分的には新たなコミュニティに引き継がれるが、逆に新たなコミュニティとの関係で、帰属をめぐる摩擦となる場合があることが析出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
状況の変化に伴って、予想した以上のスピードで、被害を訴える避難者と、自由に語ることを躊躇する避難者の両極化が進んでいるが、継続的な調査のなかでの信頼関係で後者の声を聞くことができている。補償の対象にはならない、多様な被害のかたちや心性の動きを明らかにすること、またそれをマクロな視点に位置づけることで、災害時の自治体・コミュニティの減災機能について提言しうると考えている。これまでに成果は、論文や学会報告などを通して順次、公開しており、また「聞き書き集」などを通して、見えにくくなる自主避難者の「いま」を発信するなど、研究成果の社会的還元も順調に進んでいる。なお、昨年度の研究目標に掲げた5点についての具体的な進捗状況は以下の通りである。 1. 役場機能移転自治体の避難者調査・・・地縁血縁で強く結びついていた自治体ー行政区ー住民の関係性が避難で空間的に分散するなかで機能不全を起こしているが、避難者の家族・親族のネットワーク、友人・知人のネットワークは変化しつつも情報のセイフティネットで有り続けていることがわかった。基礎資料としての詳細年表は2013年3月末まで作成終了した。 2. ゾーニングによる支援策の格差の問題・・・避難者と避難者受け入れ自治体住民との軋轢の要因やその状況を福島県内と東京、九州などと比較しつつ、これら軋轢をこえようという言説が裁判運動のなかから生み出されつつある点を見いだした。 3. 避難者の動向の把握・・・避難者の「思想」の多様性および「疎外感」については、聞き書き集ををもとに広域避難(母子避難・自主避難)に関する図書の刊行準備を行っている。 4. 成果報告、および5. 研究会の開催・・・上記の他、論文、学会報告等、研究成果の公開をすすめ、また研究会も予定通りに行った。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたるため、これまでに蓄積してきた調査研究データの分析をすすめるとともに、その成果公開を積極的にすすめていくことになる。 1. 役場機能移転自治体を含む避難指示区域の被害の実態の解明、特に避難指示解除が行われた地域・行われる予定の地域を中心に補充調査を行う。その際、避難者による集団訴訟の動向のなかで、地域がほぼまとまって訴訟行動に参加しているところがあることにも注目していく。 2. 避難指示区域の避難者、福島県内の避難者、首都圏からの避難者の状況をめぐる差異と被害の連続性に関して明らかにする。特に、仮設住宅(看做し仮設住宅)の期限問題について着目する。 3. 津波被災地と原発事故被災地とを別個に調査研究するなかで、その共通点がみえるようになった。その点に関し、生活という時間の観点から補充調査を行い、復興の手法、財源と権限の配分などの問題に着目しつつ、災害復興への提言につなげていく。 4. 最終成果の公表にむけた研究会の開催。論文、学会報告のほか、図書の刊行(聞き書きをもとにした避難者の状況に関する図書、および学術図書)により広く成果を公開していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
成果公表(出版物)のために次年度使用額が生じています。 次年度使用額については成果公表(出版物)にて使用する予定としている。原稿は一部を除き入校済みとなっている。 次年度使用額と翌年度分研究費を会わせた使用計画は、最終年度の調査研究計画に基づく調査研究に利用するほか、研究成果を一般に広く公表するために利用する。成果公表は、上述の入校済みの出版物のほか、もう1冊の出版物を計画している。
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