研究課題/領域番号 |
24330202
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研究機関 | 同志社女子大学 |
研究代表者 |
日下 菜穂子 同志社女子大学, 現代社会学部, 教授 (70309384)
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研究分担者 |
土田 宣明 立命館大学, 文学部, 教授 (40217328)
成本 迅 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (30347463)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 地域介入 / 効果測定 / 研修体制の整備 / 質問紙作成 / 持続的効果の検証 |
研究実績の概要 |
本年度は以下の7点を課題にあげ,研究を実施した。 ①生きがい創造プログラムの改良:2012年に作成したマニュアルに改良を加えた。また、大学生に対象を広げ、成人全般に活用可能なプログラムへと改良し、2015年10月に出版予定である。②ファシリテーター育成システムの構築:心理学専攻の大学生を対象とする研修を実施した。さらに心理専門職を対象に研修を実施し、研修とプログラムの実践経験者が研修を行える指導者となる体制を整えた。③生きがい創造プログラムの実施:地域在住の中高年者を対象に生きがい創造教室を開催した。さらに高齢女子受刑者10名、大学生50名にプログラムを実施した。④介入効果測定のための心理的well-being尺度の作成:2012年度2013年度の質問紙作成のためのアンケート調査の結果を精査し、プログラムが働きかける心理的well-beingの4側面を測定するワンダフル・エイジング尺度を作成し国際学会にて発表した。 ⑤プログラムの効果測定:③に示す対象者に対して、実施前と実施後、終了半年後に前頭葉機能の検査および質問紙調査を実施した。大学生に対しては介入半年前から計4回、質問紙調査を実施した。⑥追跡調査の実施:効果の持続の検証のために、過去に生きがい創造教室の参加者を対象に、フォローアップセッションを開催し質問紙調査を実施した。高齢女子受刑者の2013年度の参加者9人に対しても1年後の質問し調査および前頭葉機能の検査を実施した。⑦フォローアップ体制の整備:地域住民、高齢受刑者、大学生の介入効果の持続のためのプログラムの検討を開始した。地域住民には、定期的なフォローアップとして7月と2月にセッションを開催した。 その他、対照群として京田辺市内在住の65歳高齢者46名に、2014年内に3回の調査を実施した。また、プログラムの実践に使用する学習教材を開発し、9月に特許出願した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年度に課題としてあげた7点の課題についての研究は順調に進行し,プログラムの改善,改善したプログラムの実施,効果測定を行うことができた。また地域住民を対象に,認知機能検査および質問紙調査への回答を求め、効果測定の統制群をおくことが可能となり、2015年度に成果を論文や学会発表としてまとめる段階に至った。 追跡調査に関しては,効果の持続を検証する上で不可欠な課題であったが,参加者の多くから追跡調査への協力が得られた。一方、地域在住高齢者の追跡調査への協力率は過去の参加者の約60%であり,データの偏りを除くためにも,未回答者への調査協力の要請を継続して行う必要があることから、完全な課題の進展とは評価しなかった。しかし、プログラム改良の経過において,学びを可視化する道具として思考補助具を開発した。開発した道具を用いて,介入効果をさらに高めることができると考えられ、市販するに至っている点からは,当初の課題以上の発展と考えられる。また、コントロール群への調査を,当初の課題設定に加えて実施した。対象者の選定を無作為にできなかったという問題点が残るものの,論文として公表する上での一定の条件は満たしうるものと考えられる。ファシリテーターの育成については,当初は専門職を対象に研修を実施する計画であったが,ファシリテーター自身のプログラム参加によるwell-beingや認知機能における改善が認められることや,またプログラムの費用対効果を考慮し,学生と市民がプログラムを進行し、心理専門職がスーパーバイズにあたる方式をとることとした。来年度はこの体制での効果を検討した上で,体制の見直しや改善を加えたい。 以上より,課題の新着状況は順調であり,計画以上の進展もあったが,現在において検討中の課題もあることから,おおむね順調に進展と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究における地域実践および調査を総括し,多世代の心理的健康維持・増進に効果的な地域支援モデルとして,研究成果をまとめ公表する。具体的な達成課題は下の5点である。 ①生きがい創造プログラムの実践:改良を加えたプログラムを実施し、介入効果の測定のためのデータを継続的に蓄積する。2統制群の高齢者に対して,倫理的配慮からプログラムの介入を実施する。高齢女子受刑者を対象にプログラムを実施する。参加者に対して、介入前後および追跡調査を実施する。昨年度以前の参加者の追跡調査も実施し,効果の持続を検討する。②介入効果の年齢別の比較:生きがい創造プログラムを,大学生のキャリア教育に応用して実施し、年代別の介入効果を比較検証する。さらにファシリテーター研修を学生に対して実施し,学生が学生とともに学ぶ共同学習の形式でプログラムを進行する。ファシリテーター学生と,受講学生における参加の効果も検討する。③研修マニュアルの完成:ファシリテーター育成のマニュアルを完成させる。マニュアルでは,グループの関係性づくりと活動の進行のスキルについて詳しく演習を通して学べるように改良を加える。④研究成果の公開:プログラムの参加者のデータに①を追加し,地域高齢者のwell-beingと認知機能における介入効果を、統制群、大学生群別に比較検討し論文化する。また,学会におけるシンポジウムおよび、市民講座で市民に成果を公表し,市民の心理的健康増進への還元をめざす。改良されたプログラムの手法と理論は,テキストとして今年度中に出版予定である。高齢受刑者への介入について国際学会での発表及び論文として公表する(投稿中)。⑤プログラム参加後の継続支援の検討:プログラムの効果の持続のための支援の方法を検討し、フォローアップの実施体制を整える。 以上の5点により,4年間の研究の成果をまとめたい。
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