研究課題
筆者が提唱した漸近展開によるオプション評価法(J.Japan Statistical Society 1992,PTRF 1992)は,期待値の超高速計算法として金融機関等で広く用いられている.学習理論の導入により確率数値計算における新しいスキームの確立を目指し,東京大学と早稲田大のグループで研究を行ってきたが,様々な非線形判別(学習機械)による試行の中で,ランダムフォレストによる誤差の予測において有望な特徴量が明らかになってきた.確率過程のシミュレーションおよび統計解析のための大規模RソフトウエアYUIMAに関して,フラクショナル・ブラウン運動で駆動される確率微分方程式,非同期共分散推定,CARMA過程等のモジュール構成において進展があった.点過程のモジュールの構築に関して研究が進んでいる.有限時間離散観測におけるセミマルチンゲールの分散共分散推定量は一般に混合正規極限を持つ.漸近展開は全く知られていなかったが,最近筆者によって与えられ(SPA 2013),非エルゴード的統計学でも高次漸近理論の可能性が開け,応用として,リアライズド・ボラティリティやp-変動の漸近展開が得られた.さらに,マイクロストラクチャーのある場合のノイズ除去を伴う分散推定量の漸近展開の研究が進行している.非エルゴード的統計におけるモデル選択問題すなわち情報量規準の構成は未解決の問題である.有限時間離散観測におけるボラティリティの非線形パラメトリックモデルに対して,スポットボラティリティ情報量規準 sVIC を提案し,予測分布と真の分布の乖離が補正されることを理論的に保証した.基本的な道具は,ボラティリティに関する疑似尤度解析と混合型マルチンゲール展開であり,最新の理論統計と確率論の成果が直接使われている.シミュレーション実験と金融データへの適用を行い,ボラティリティ項の指数に関して新たな知見を得た.
2: おおむね順調に進展している
確率数値解析における漸近展開法と機械学習との融合の可能性がわかり,データ解析のインフラとなるソフトウエア開発のための基礎理論の研究も進み,扱える確率過程のクラスや統計推測法の実装も進んでいる.有限時間非同期観測下でのボラティリティに対する疑似尤度解析の研究も深化している.また,非エルゴード的統計であるこのような問題で,パラメトリックモデルに対する情報量規準の構成にも成功した.そこでは,この課題に関わる,混合正規極限を持つマルチンゲール漸近展開と,ボラティリティに対する疑似尤度解析の結果が重要な役割を果たし,研究が全体として有機的に広がっている.東京大学でASC2014 Asymptotic Statistics and Computations,パリ第6大学でStatistics for Stochastic Processes and Analysis of High Frequency Data,東京大学でBernoulli Society Satellite Meeting to the ISI World Statistics Congress 2013, Asymptotic Statistics and Related Topics: Theories and Methodologiesを開催し,情報収集でも大きな成果があった.
マイクロストラクチャーのある状況で,修正されたp-変動の分布の漸近展開が進んでいる.ジャンプ過程および疑似尤度比確率場の様々な分離性の下での,確率場の裾確率評価を含めた強い意味の疑似尤度解析の構築は課題である.計算機実装とデータ解析も発展させる.
プロジェクトに協力してもらっている外部の研究者や,大学院生の協力が予想以上に大きく,計算機実装および研究補助のための人件費が押さえられた.大学院生の就職等のため,マンパワーの確保が別途必要である.
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 4件) 備考 (1件)
Journal of Statistical Software
巻: 57 ページ: 未定
Electronic Communications in Probability
巻: 18 ページ: 1-10
10.1214/ECP.v18-2726
Stochastic Processes and their Applications (Available online 6 April 2013)
巻: 123 ページ: 2851-2876
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Bernoulli
巻: 19 ページ: 363-719
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http://www2.ms.u-tokyo.ac.jp/probstat/?page_id=15