研究概要 |
研究代表者らはこれまで,2階楕円型偏微分作用素に対する可逆性の検証条件を導き,さらに1次元Orr-Sommerfeld方程式の線形化逆作用素の有限次元作用素による一様近似に成功してきた.これら個別の方程式に対する成果・知見を取り込みながら,無限次元線形作用素の可逆性の検証と逆作用素の精度保証付きノルム評価方法を可能な限り一般的な関数空間と作用素に拡張した理論として与えるための研究を推進した.また,この一般理論によって得られる逆作用素ノルム評価が,有限次元作用素による一様近似となるだけでなく,従来の方法では得ることのできなかった下限の制約がない最適評価を導くことを確認した. さらに,具体的な適用例として,各種境界条件を持つ移流拡散方程式,反応拡散方程式,Navier-Stokes方程式,Oberbeck-Boussinesq方程式の定常問題に対する線形化作用素を取り上げ,精度保証付き数値計算を行うことにより,構築した理論の有効性を確認した. 次に,線形作用素の可逆性の確認と有限次元作用素による近似を,有限次元行列に対するスペクトルノルム評価すなわち特異値問題に帰着させた.特に偏微分作用素をGalerkin近似により離散化して得られる 行列の多くは大規模かつスパース構造を持ち,一般にHermite性・正定値性は保証されない.本研究では,摂動理論と浮動小数点演算の事後誤差評価を併用することにより,可能な限り行列の構造を維持しながらスペクトルノルムの上界を精度保証付きで求める高精度・高効率アルゴリズムを与えた.さらに,開発・実装したアルゴリズムをプログラムライブラリとして整備するとともに,アルゴリズムの並列化および多倍長精度保証環境への実装も検討した.
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