研究概要 |
曲面上の反応拡散型モデルは適当な変数変換を施すことにより, 係数が空間依存性を持つ方程式に変換することができる.これを不均一媒体上の方程式とみなすことにより, 係数の空間依存性がパルス上局在解の運動にどのような影響を与えるかを, より具体的に調べることを今年度の一つの目標とした.そのための題材の一つとして, 一般に FitzHugh-Nagumo 方程式と呼ばれる神経伝搬方程式を考え, 解の運動を詳細に調べた.その結果, パルス上局在解を進行フロント解と逆進行フロント解の組み合わせとしてとらえるとき, 不均一性はそれぞれのフロント解に対して反対の効果で働くことを示すことができた.またその一つの応用として, 空間周期的な不均一性があるとき, パルス幅が伸びたり縮んだりしながら進行する, いわゆる尺取り虫型運動が出現することも示すことができた.こうして, 不均一性に対する知見をある程度得た上で, 曲面上の遅い進行パルス運動を考察し, 特殊なケースとして球面上の進行パルス運動に対して正確な運動方程式の導出を試みた.その結果, 進行パルスは球面上では測地線に沿って運動することなどを示すことができた.また, 地球楕円面においては, 少なくとも数値シミュレーションでは, 長半径方向(赤道)の軌道に近づいていくことが確認された.今後はこうした結果の理論的裏付けを行っていく予定である.最後に, 2次元平面上の遅い進行パルスに関しては, これまで数値シミュレーションによってのみその存在が確認されていたが, 3変数系のモデルを用いることにより, ある程度理論的に構成できることが分かりつつある.これにより将来的には定性的だけではなく, 定量的に理論式との比較が行えると期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本来なら既に一般の曲面上での運動方程式を導出しているはずであったが, 静止パルスの曲面上での運動方程式の導出は成功したものの, 進行パルスの運動方程式の導出に関しては, 最終的な導出に成功していないのが現状である.これは平面上の運動では出現していなかった項が多数出てきて, かなり高次項まで重大な影響を残していることが原因であるが, 導出のための手法自身は当初計画で問題なく, あとは注意深く漸近展開を実行すればいいという状況になっている.
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今後の研究の推進方策 |
達成度の項目でも記したように, まずは膨大な計算を注意深く実行することが重要である.その上で導出された方程式が本当に間違いないかどうかを微分幾何の文献や研究者との討論, および数値計算等を通してチェックしていく.また, より一般に空間不均一性の効果を他の反応拡散モデルに対しても調べることにより, より多くの知見を得る.そうしたチェックが終わったあとは, 複数のパルスの相互作用を調べる問題へと進み, 曲面の幾何的性質や媒質の不均一性が複数パルスの相互作用にどのような影響を与えるかを調べる予定である.
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