研究実績の概要 |
当研究課題では反応拡散系における局在解の運動を, 特に相互作用の観点から理論的に解析することを目指しているが,前年度から引き続き, 水面に浮かべた樟脳片の相互作用に焦点を当て, 理論解析の完成と実験との詳細な照合を行った.一般にパルスの運動を解析するためには, 元となるパルス状局在解の存在のみならず, その線形化作用素のスペクトル分布や共役作用素の固有関数の情報などが必要となるが, そうした情報を得ることは一般には甚だ困難であり, 多くの場合, 特異摂動法を用いるなど, 特殊なパラメータ領域で近似解を構成するといった方法をとっていた.一方で, 樟脳片の運動を記述したモデル方程式においては, 上記の必要情報を余すことなく具体的に得ることができるという利点がある.実際, 樟脳片の数理モデルから必要情報をすべて抜き出すことに成功し, 単独の樟脳片の安定性, および複数ある場合の樟脳片の形状と相互作用の関係を明らかにすることができた.特に相互作用に関しては, 樟脳片は互いの重心を結ぶ中心線に関して, 形状に応じてある一定の角度になることを理論的に導くことができた.実験による検証を行うため, 形状が特に楕円様の2モード解と三角形様の3モード解の場合に詳細に解析を行い, 相互作用を記述する方程式を具体的に書き下した結果, 樟脳片形状が楕円様の場合は短軸が中心線と平行となるように,三角形様の場合は底辺が中心に直交するように, それぞれ相互作用することを示すことができた.それに対応する検証実験を実際の樟脳片を用いて行い,ほぼ理論と合致する結果を得ることにも成功した.樟脳片は実験も容易なことから, 今後. 理論の実験との比較検証を更に進め, 業績論文としてまとめる予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
樟脳片における非球対称定常局在解に関しては当初, 楕円形状の場合のみ具体的計算ができることを期待していたが, 予想に反して,任意形状で必要情報を抜き出すことに成功した.これにより,楕円形状に限定する必要がなくなり, かなり一般的な議論が可能となった.またそれにより, 実験との比較がより容易になった点は大きな進展といえる.
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今後の研究の推進方策 |
理論を深める方向, たとえば得られた必要情報を用いることによる分岐構造の決定や, 樟脳片形状に依存した進行方向の選択性など,これまで数値計算のみでしか確認されていなかった事実に理論的基盤をしっかり与え, より一般の反応拡散系へ拡張するための足がかりを築いていく予定である.一方それと同時に, 今後も実験による比較検証を行っていくためには,実験による検証が可能な条件設定の元での理論造りも重要となってくる.たとえば通常, モデル方程式に入っている非線形項はかなり具体的な関数形を使用することが多いが, 実際の現象では単調性や on-off など定性的な性質しかチェックできないことが多い.したがって,そのような実験で検証できる条件だけで帰結できる理論造りも重要と考え, その構築も目指していく予定である.
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