研究実績の概要 |
当研究課題では反応拡散系における局在解の運動を, 特に相互作用の観点から理論的に解析することを目指したが,前年度から引き続き行った, 水面に浮かべた樟脳片の相互作用に関しては その理論解析, および実験との詳細な照合も終了し, 現在業績論文として執筆中である. 一般にパルスの運動を解析するためには,元となるパルス状局在解の存在のみならず, その線形化作用素のスペクトル分布や共役作用素の固有関数の情報などが必要となるが,そうした情報を得ることは一般には甚だ困難であり,多くの場合, 特異摂動法を用いるなど, 特殊なパラメータ領域で近似解を構成するといった方法をとっていた.樟脳片の運動はそうした情報が得ることのできる例であったが,当年度においてはもう一つの重要な例である, 細胞極性の運動解析を行った.細胞極性を記述する数理モデルは, 一般に非局所項を有し,その運動には非局所的な性質が本質的に関与してくる.最も典型的な非局所的性質は, 局在解同士が衝突することなく,成長・減衰を繰り返し, 最終的に必ずただ一つの局在解に収束することである.こうした性質の理論的解析は現段階では困難を伴うが, そのための第1ステップとして,一つの局在解の運動を解析し, 外部から刺激等が与えられた場合の最終移動地点の予測などを行うことができた.この結果, およびその手法は実際の生命系においても有効であることが判明し, 現在理論を中心とした論文と実験系を中心とした論文の2つを執筆中である.
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