研究課題/領域番号 |
24340045
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
駒宮 幸男 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80126060)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 超冷中性子 / CCD / 量子束縛状態 / 未知短距離力 |
研究概要 |
開発した検出器システムを用いてラウェ・ランジュバン研究所において測定したデータの解析を行った。実験データの位置分布と計算による分布比較し、最尤法によって解析を行った。 重力による量子状態の各順位の比率を求める計算モデルを、量子状態に遷移する前後の境界条件と、高いエネルギーの中性子が取り除かれていく過程に基づいて構築した。超冷中性子を円柱面で反射し、分布を拡大にする過程は、位相空間上での量子状態の時間発展を記述するウィグナー関数を用いて取り扱った。低速な超冷中性子に対して、量子光学で用いられるウィグナー関数を適用することは独創的で、このような系に適用可能であることも自明ではない。拡大円柱面を用いたデータと用いないデータを比較し、双方の結果は矛盾せず、拡大システムが量子状態に擾乱を起こすことはなく、新しく構築した計算モデルも実験的に正しいことが示された。実験データと計算による分布を比較した結果、両者はよく一致し、特に、量子力学に特有な数個の分布の濃淡の形が一致していることが確認できた。また装置の工作精度等による分布への影響を調べ、系統的な誤差の影響を見積もり、量子状態の高さの不確定性に換算するとサブミクロン以下であることが確認された。この結果は2014年2月にPhysical Review Letters に載った。 今年度の研究によって、超冷中性子の量子状態の位置分布をサブミクロンの精度で観察することに成功した。現在の超冷中性子検出器の位置分解能を大きく越える世界初の結果であり、重力による量子状態の観測にとどまらず、超冷中性子を用いた基礎物理の研究に、広く応用されることが期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
超冷中性子分布をニッケル円柱面で拡大する過程の量子力学に基づいたモデルを構築し、検証することができ、世界で初めてサブミリミクロンの精度で分布を測定し、量子状態の確実な測定に成功した。この結果を論文としてPhysical Review Lettersに発表した。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の研究の結果は、重力相互作用によるポテンシャルが既知のものと同じである場合の結果とよく一致していた。今後は、さらに測定器システム及び解析手法に改良を行い、既知の重力相互作用との相違に対する感度を上げた測定を行う。また、サブミリメートルスケールでの重力の等価原理を確立した実験は世界にないので、この方法を確立していきたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
これまで実験を行なっていたフランス・グルノーブルのLaue Langevin 研究所(ILL)の実験申請の方針に重大な変更があり、実験の遂行が難しくなった。即ち、今までは実験の参加者の所属などは問われなかったが、実験参加者の2/3以上が、ILLのメンバー国(ヨーロッパ諸国)の研究所や大学の所属であることを要求してきた。実験参加者をヨーロッパの研究所や大学から急に集めることは困難であった。 ヨーロッパの研究所や大学から参加者を募り、ILLで引き続き実験を行なうか、他の研究所の中性子源を使って実験をするかの2通りの方法を考えている。ILLの新たな Policy はICFA(International Committee for Future Accelerator)のガイドラインに反している可能性があるので、交渉も行なうことを考えている。いずれにしても今年中に以前よりも精度のよい実験を企画している。
|